若者と選挙 番外編④「安倍やめろ!から三か月半 『こんな人たち』の今」選挙戦最終日 最後の首相演説ルポ
2017年10月23日早稲田大学商学部2年 砂川侑花
〈選挙戦最終日 安倍首相秋葉原演説 声が挙げられなくなる未来は近いのか〉
衆議院議員選挙投票日前日の10月21日、安倍首相が最後の演説に選んだ場所は、因縁の地・秋葉原だった―――
12、14年の衆院選でも最後の演説地に選び、いずれも勝利した「聖地」であった秋葉原。安倍首相にとって選挙演説のホームだ。
しかし、今年7月の東京都議選。この地は安倍首相の思惑通りにはいかなかった。
詰めかけた群衆からの「安倍やめろ!」コールだ。安倍首相はこのコールに「こんな人たちに負けるわけにはいかない!」と叫び、この発言は話題となった。
結果、今年7月に行われた東京都議選で自民党は127議席中23議席にとどまるという歴史的惨敗を記録。
あれから三か月半が経ったが、衆院選で秋葉原はどんな顔を安倍首相に見せることになったのか。筆者は「こんな人たち」の声に迫った。
「アリの子一匹入れない。こんだけガードしてるなんて」
「こりゃあムリだ」
「全部動員したんだ」
ため息を漏らしながら、「こんな人たち」はバラバラと陸橋の上に集まって来た。その数10数人。安倍首相が登場する約3時間前である。
陸橋の下には、7月に「安倍やめろ!」の横断幕を翻した場所がある。その日、そこには日の丸の旗が埋め尽くし、「こんな人たち」の影は少しも見えなかった。
唯一陸橋の下で「森友疑惑 徹底糾明を」と、静かに掲げていた世田谷区在住の男性(60代・会社員)は自民党支持者に掴みかかられ、挙句の果て警察に駅まで連れていかれた。
男性は、池袋(18日)、三軒茶屋(20日)の安倍首相演説でもプラカードを手にし、抗議したが腕を掴まれたり、引きずられたりしたという。
その日、駅まで連れ出した私服刑事は「●●さん、行きますよ」と男性の名前を呼んで背中を押した。男性が「なぜ俺の名前を知っている?」と問うと、刑事は「知ってますよ」と答えた。
男性「調べたな」
首相の批判をするものは、名前を調べられ排除される。「ここだけ戦前のようだ」と思わずにいられなかった。
冒頭解散の国会も傍聴したその男性は「おかしいだろ。1/4以上の議員が反対しているのに、明日負けたらOKってなって変わっちゃう。突きつけないと気が済まない。違憲なことやってるんだから。納得いってないことを声に出してるんだ」と憤った。
陸橋の上では、横浜市から足を運んだ男性(70代)が私服刑事に制止されながらも「私は安倍晋三が大嫌いだ‼」と赤い文字で記したのぼりを掲げた。「見えないと意味ないから」と男性は真剣な表情で言う。
排除はされなかったものの、日の丸を持った市民から掴みかかられのぼりを倒されそうになることもあり、その度に周りの「反安倍」同志で守った。
しかし、安倍首相の演説が始まるあたりにやはり変化があった。
自民党と書かれたジャンパーを身につけた人物がそれを脱いで「安倍やめろ!」コールをするものたちの近くにより、「安倍さん頑張れ~!」と大声を上げ始めた。「安倍やめろ」コールはまぎれた。
そして別の自民党職員らしき人物も来て、赤い文字で記したのぼりを傘で隠したのだ。
「反安倍」の声が、首相の目に入ることも、耳に入ることも許されないのか。
国会はすぐに解散され、野党が声を上げることも許されない。ましてや一般市民が路上で声を上げることも許されない。首相が普段声の届くところにいないから、声の届くところに来て反対の声を届けようとしているのだ。
自民党支持者が掲げていたプラカードで多かったのが「偏向報道許さない!」。
演説が終わると、自民党支持者はマスコミの柵の近くに集まり、「偏向マスコミは日本から出ていけ」「あなたは日本人ですか」など罵声を浴びせた。
「ゴミ!ゴミ!」とコールも起こった。筆者は、新聞社を志す学生として「これがメディアに対する評価なのか」と心が折れそうになりながらも、その場を後にした。
「やめろ」より「ゴミ」のほうがひどく感じるのは筆者だけだろうか。
首相が不利になることをいうメディアはゴミ。
なぜゴミなのか「偏向報道を許さない」というプラカードを持つ男性に聞いてみたが、「モリカケの何が問題なんだ。あれは捏造だ」と言う。「首相が、国民が払った税金使って友達を援助してるのが問題なのでは...。設計図見ても明らかに金額に齟齬があるし」と思いながらも口をつぐんだ。
昨日の投開票で、自公勢力は全議席数の2/3を獲得した。賛成が過半数を占めれば、改憲案は通る。反対の声が聞こえなくなったマジョリティほど恐ろしいものはない。この国はいったいどこに向かうのだろう。選挙の前と後では世界は変わって見えるのだろうか。