人気の理由は? 海老名の「いま」を学生が取材(前編)

2020年12月23日東海大学 笠原研究室

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駅周辺の著しい発展で近年、人気が急上昇している海老名市。タワーマンションが相次いで建設され、2015年には大型複合商業施設「ららぽーと海老名」がオープンして賑わいがさらに増した。リクルートによる「SUUMO住みたい街ランキング2020 関東版」(※)では、神奈川県内で横浜、鎌倉、武蔵小杉、たまプラーザ、川崎に次いで6位、関東全体でも荻窪や三軒茶屋より上位の27位に入っている。だが我々にとっては意外なことに、つい20年前まで今の面影は全くなかったという。海老名の今の人気の理由や街づくりのポイント、そして今後の課題はどこにあるのか。住民や地元不動産、老舗飲食店に聞いた声を、海老名市役所にぶつけてみた。 (東海大学文化社会学部広報メディア学科3年 伊東大智、右田将己、宮原颯太)

https://www.recruit-sumai.co.jp/press/upload/854fcc6878dbb67d3a1d5ef43feea8d5.pdf

東海大学文化社会学部広報メディア学科の笠原研究室では、学生が地域の魅力や課題を取材し、記事にまとめて発信するプロジェクトを始めます。今回はその第1回目として海老名市に注目し、前編は街づくりのポイントや魅力、後編は課題について考えました。今後も随時、この「政治の村students」に記事を掲載していきます。

官民連携 一体的開発がカギ

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小田急線・相鉄線とJR相模線との間の「駅間地区」では、タワーマンションの建設が相次ぐ。(2020年11月26日撮影)

海老名駅前で取材した金子さん(29)は、「夫の職場が町田、自分は相模原で、乗り換えなしで行けるから電車移動が楽。交通の便がすごくいい」と5年前、2人の子どもと引っ越してきたという。海老名駅には小田急線、相鉄線、JR相模線の3路線が乗り入れる。県央の交通の中枢を担うターミナル駅の賑わいは、当然のように思える。

だが、「20年前の駅周辺は田んぼが広がり、夜の駅前は真っ暗。飲食店もポツリ、ポツリという状態」だったと、『株式会社秀建』で勤続20年を迎える池邊徹郎さん(42)は振り返る。同社は1972年に海老名で創業し、戸建て住宅の販売などを行う「地場ビルダー」だ。池邊さんが入社した2000年当時、遊ぶ場所と言えば本厚木か相模大野だったという。しかし海老名駅周辺の開発が始まってから、地価が急上昇。駅前のマンションは1坪100万円ほどだったのが、約150万円に跳ね上がった。池邊さんは、「駅周辺に大規模開発が可能な空き地が残っており、そこを市の都市計画が上手に線引きした」とみる。この間、どのような事情があったのか?海老名市都市計画課の佐藤秀之課長と、佐々木良一課長補佐にお話を伺った。

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取材に応じて下さった、海老名市都市計画課の佐藤秀之課長(右)と佐々木良一課長補佐。(2020年11月26日撮影)

学生:海老名駅前の大規模な開発は、どのように始まったのでしょうか?

海老名市:現在の「ららぽーと」がある駅西口地区は10年前まで水田で、商業地といえば東口でした。その西口の開発が浮上したのは1984年、都市計画区域の見直しを行った時でした。人口が伸びてきている時期で、「市街化区域※を拡大する必要がある」との認識が共有されましたが、その後30年近く、水田の地権者さんとの話し合いが続きました。そして2012年、ようやく市街化区域への編入について地権者さんと合意できました。「市の中心的な拠点にふさわしい新市街地の形成」を目標に、商業施設と住宅を複合的に開発する地域とし、2015年には「ららぽーと海老名」開業に合わせて「まち開き」も行いました。現在、東口と西口を同時に発展させる「東西一体の街づくり」を掲げています。
※市街化区域=既に市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域。(都市計画法)

学生:計画が軌道に乗ったと感じた時期や出来事はありましたか?また、西口を市街化区域に編入する話が、2012年にようやくまとまったのはなぜだったのでしょうか?

海老名市:2002年に東口に「ビナウォーク」が完成し、「変わってきたな」と思いましたね。それまで駅前の商業施設といえば「ニチイ」(現イオン海老名店)しかありませんでした。小田急さんのビナウォーク開発に合わせ、市がペデストリアンデッキ(※)を整備し、駅と直結しました。こうして駅前開発の雰囲気が盛り上がったことが、西口の地権者さんにも届いたのではないでしょうか。行政と民間が連携し、一体的な開発に成功したことがポイントだったと思います。このペデストリアンデッキを西口の「ららぽーと」まで延長し、東口地区の小田急線と相鉄線、西口地区のJR相模線が直結され、街の基礎ができたと感じました。
※ペデストリアンデッキ=駅の2階出入口と建物を立体的につなぐ歩行者専用の通路で、地上に降りて道路を横断しなくても建物に直接行ける。

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小田急線海老名駅と「ビナウォーク」を結ぶペデストリアンデッキ。(2020年11月26日撮影)

「新しい街」で安心感ある住環境

「子育てがしやすい」という声も、取材した住民から多くあがった。駅の周りは開発が進む一方、少し離れると緑が多く、子供たちが遊べる公園や田んぼなどが多くある。駅前のタワーマンション近くで3歳の子どもと散歩していた里田さん(34)は1年半前、綾瀬からこのマンションに移住してきた。「駅前の商業施設が充実していて生活しやすいし、子どもを外で遊ばせてあげられる環境が近くにあるのは凄くいい」と語る。

1971年に海老名市で創業した不動産業『有限会社三幸商事』の菊池実さん(49)は、「周りの市と比べて治安が良いことが魅力」と話す。神奈川県警の統計(※)によると、2019年に海老名市で起きた犯罪の認知件数は819件。隣接する厚木市の1232件、大和市の1531件と比べると、その少なさが際立つ。「駅周辺は雰囲気が明るく、街並みもきれい。安心して子育てができる環境がある」と菊池さんは言う。
 ※https://www.police.pref.kanagawa.jp/pdf/c0030_37.pdf

学生: 海老名の魅力として、子育てのしやすさや治安の良さといった声も多く聞きます。市としてどのような取り組みをしていますか?

海老名市:海老名市は宅建協会県央支部、海老名警察署と2001年に協定を結びました。風俗店やパチンコ店、ゲームセンターなどの遊技場の進出に複雑な手続きを設けることで、開発の抑制を図っています。既にこうした店がある場合、後から規制することは難しいのですが、海老名はそれまで開発されていなかった「新しい街」だったので、こうした店が進出する前に規制できたのが大きかったですね。また市内に600台以上の防犯カメラを設置し、下校時には青パト(※)を巡回させ子供たちの安全を見守る取り組みも行なっています。 子育て支援にも力を入れています。中学生までの間、小さなけがや風邪から手術まですべての医療費が無料。15歳以下までの医療費無償化は、県内でもトップレベルです。また新生児への支援として、6か月児未満のお子さんに紙オムツを6袋支給しています。「住んでもらい、子供を産んでもらい、育ててもらい、その子供たちにまた住んでもらう」というサイクルを生んでいきたいですね。
※青パト=青色回転灯を装備して自主防犯パトロールを行う自動車

後編へ続きます


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