人気の理由は? 海老名の「いま」を学生が取材(後編)

2020年12月26日東海大学 笠原研究室

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「病院、待機児童、渋滞」直面する課題の現状

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写真左奥には市街地のタワーマンションが見えるが、駅から20分も歩けば水田が広がる。(2020年12月7日、海老名市中新田の県立海老名高校付近で撮影)

海老名市の人口は右肩上がりだ。2001年から20年の人口増加率は1.15。横浜市の1.09を抜いて県内4位となっており、神奈川県全体の1.08と比べても高い。だが年代別で見ると、違った面も見えてくる。地場ビルダー『秀建』の池邊さんによると、子育て世代よりも、65歳以上の高齢者の増加が目立つという。その理由を池邊さんは、「駅前のタワーマンションの価格は子育て世代にとってかなり高く、高齢者が郊外の家を売って入居するケースが多いのでは」と分析する。駅前で取材に答えてくれた吉田さん(72)は2年前、東京都品川区から移住してきたが、「これからもっと多くの人が海老名に移住してくると考えたら、現在の病院の数では足りなくなるのでは」と不安を語る。現在、市内の大きな病院は海老名総合病院しかないことから、「今のうちから病院の数を増やして、医療機関の不足を補って欲しい」と訴えた。

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取材に応じて下さった、海老名市都市計画課の佐藤秀之課長(右)と佐々木良一課長補佐。(2020年11月26日撮影)

学生: 人口が急激に増加していますが、どのような課題が浮上していますか?

海老名市:人口が急に増えたため、様々な需要に比べて供給が追いつかない一時的なタイムラグが生じています。例えば待機児童問題や医療施設の不足を懸念する声がありますが、どちらも民間企業と協力して対策を行っています。待機児童問題では、市は「2021年までに待機児童ゼロ」という目標を掲げており、2015年と比べると保育園やこども園など計13施設が増えました。病院についても、海老名総合病院さんが新棟を建設していますし、駅周辺にクリニックモールも増えつつあり、徐々に供給がキャッチアップしているかな、と思います。他にも「ららぽーと」が開業したことで駅周辺の道路が渋滞していますが、現在、中央図書館の横にアンダーパスを建設するなどして新しい道路を増やし対応している途中です。

人口減少時代 「住みやすい街」を未来へ

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「そば処ささや」の笹川博さん(左)と君子さん(中央)(2020年12月7日撮影)

「海老名からは離れたくない」。「そば処ささや」を夫の博さん(80)と共に営む笹川君子さん(73)は、笑顔でそう語る。終戦後すぐに山形から上京し、都内で修業する中で博さんと出会い結婚。36年前、海老名に店を構えた。海老名を選んだ理由は、「駅のホームから見た景色が、山形の雰囲気と似ていた。自然が多くて、子育てに良い環境だと思って」。同店は小田急線海老名駅から徒歩約10分。現在は向かいに25階建て商業ビルが建つ市街地にあるが、当時の店周辺はまだ田んぼに囲まれ、砂利道にカエルの鳴き声がこだましていたという。同じように地方から上京してきた人と共に、温かなコミュニティを築いてきた笹川さん夫婦。近年の駅前開発で「若い人も来てくれるようになってね、活気が出てきた」と、店の切り盛りにもいっそう力が入る。

街の発展を見越して25年前に移住してきたのは、「イオン海老名店」に店を構えるパスタ専門店「グランサッソ」のオーナー奥村将さん(52)だ。その2年前の1993年、国内初のシネマコンプレックス『ワーナー・マイカル・シネマズ』(現イオンシネマ)が海老名に誕生していた。店を構える場所を探していた奥村さんは、「今は何もないところだけど、これから伸びるのでは」と直感。当時の海老名ではパスタ専門店自体が珍しく、「パスタしかないなら帰る」など辛辣な言葉を受けることも多かったというが、時には酒を交わすなどして関係を深め、徐々に愛される店へと成長した。

ミュージシャンでもある奥村さんは店内にドラムセットを置き、定期的にライブも開いている。2011年の東日本大震災の際には、宮城県出身のロックバンド「HOUND DOG」の元メンバーとFacebookを通して出会い、チャリティーライブを依頼された。賛同してくれた人達とさっそくバンドを結成。店内でのライブを中心に3年間、募金活動を行い、宮城県石巻市の海岸で1000発の花火を打ち上げた。「街の人柄がいい」と、奥村さんはしみじみと語る。

学生: 駅前の開発が進む一方、郊外には水田が残っています。開発と環境保全のバランスについてはどう考えていますか?

海老名市:海老名市に来てもらい、住んでもらうためには、駅周辺を活性化し市街地を広げる必要があります。一方、駅から少し離れると自然があるということはアピールポイントでもあるので、守るべきところは守るという方針を定め、メリハリをつけた街づくりをしていきたいと考えています。  しかし、むしろ課題は人口減少にどう対応するか、だと考えています。日本全体の少子高齢化傾向の中で、海老名市も2023年に人口のピークを迎えると予想しています。そこで、人口が増加している元気な時期に人口減少に備え、街の形を保つことを目的に、「立地適正化計画」を2019年3月に策定しました。「暮らしやすい便利な居住地」に居住を誘導し、人口減少時代でもコミュニティを維持できるようにするなど、将来の人口減少時代を見据えた対策を行っています。

取材を終えて

街の魅力は人の魅力(伊東大智)

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街づくりのポイントを住民の方に聞いていく中で取材する相手の人生、海老名に行き着いた経緯を知れるのはとても貴重な経験になったと感じました。街作りの中で話を伺っていくと全員が海老名に住む人の温かさについて語ってくれました。街は建造物を多く構築することで完成していますが、大切なのは街に住む人達だと私は取材を進めていく中で感じました。

市の街作りは地域のイメージ、住みやすさを意識したまちづくりを様々な角度から年月をかけて形成する過程を今回の取材を通して垣間見ることができました。魅力ある街ができるまでを知れて個人的にも楽しかったです。

今回の活動で海老名に住む人の魅力の他に、取材の過酷さを痛感しました。実際に話を伺い原稿を作成すると、聞き足りない部分や深掘りするべきだった話題があったことに気づきます。その場合、再取材を行わなければならず、取材相手の方には非常にご迷惑をおかけしました。改めてプロの編集者の凄さ、一人一人の足跡を辿る取材の楽しさを今回の活動を通して学ぶことが出来ました。

田舎でもあり都会でもある街(右田将己)

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今回の取材では海老名市に住む住民の方や街の不動産屋さんなど様々な人たちから話を聞く事が出来ました。市の魅力としては「交通の便がいい」「子育てがしやすい」などといった多くの魅力がある事が分かりました。そんな中「治安がいい事」や「都会でもあり田舎でもある所がいい」といった、実際に取材してみなくては分からない部分も多くある事が分かりました。また市の課題としては「医療機関の不足、保育園施設の不足」「ららぽーと海老名の周辺の道路が渋滞する」などといった課題がある事が分かりました。しかしこの課題一つ一つに市としては対応策を考えていて、どうしたら海老名がもっと住みやすい街になるのかを考えている事が分かりました。

これからもっと多くの人が移住してくると予想されている海老名ですが、出てくる課題を一つ一つ解決し魅力を増やしていき、「住みたい、住みつづけたい」と思われる街になっていけたらいいと思いました。

街の未来を見つめる眼差し(宮原颯太)

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今回の記事執筆にあたり、私は海老名市の不動産屋と都市計画課の方にお話を伺いました。

取材で印象的だったのは、今後を見据えた課題や取り組むべきことを伺った際の真剣な眼差しです。その姿から、自分が生きる海老名に誇りと愛を持っていて、未来をより良いものにしていきたいという意思を感じました。

また、地元での就職を考えている私にとって今回の取材はとても有意義なものになりました。不動産屋や都市計画課の方々は、海老名の街の歴史、現状、未来を踏まえて今何をすべきなのかをしっかりと分析していました。今まで私は漠然と「地元の発展に貢献したい」と言う気持ちでいましたが、客観的に街の未来を見つめて、何ができるのかを突き詰めて考えることが重要だと感じました。そして、自分なりの答えを持って就職活動に臨みたいと思います。

取材で伺ったお話を記事にするのはとても難しかったですが、今回の記事で1人でも多くの人に海老名市の魅力が伝わればいいなと思います。


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