総選挙 東海大生が東海大生に取材しました

2021年10月25日東海大学 笠原研究室

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多くの大学生にとって初めてとなる衆院選が始まった。新聞やテレビの報道は過熱しているが、大学生の間で選挙が話題になることはほとんどない。若者は政治について何を思い、何を求めているのか――。東海大学湘南キャンパスで学ぶ学生に取材した。

(東海大学 文化社会学部 広報メディア学科 笠原ゼミ 佐藤梨穂香、戸森生実、増田祥太、宮原颯太)

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総選挙が公示された日の東海大学湘南キャンパス。候補者のポスターに足を止める学生はほとんどいない。(10月19日12時55分撮影)

■どうして選挙に行かないの?

「選挙や政治に興味を持ったことはない」。教養学部芸術学科3年の元田杏子さん(21)は、こう言い切る。両親はテレビのニュースや政治討論番組を録画するほどだが、自身は「リビングで流れていても見ようとは思わないし、自分が大人になってから見るとも思えない」と苦笑。その理由は「今の政治家が日本の問題を解決してくれたり、現状を変えてくれるとは思えないから」で、「政策をもっと国民に伝わる形で説明してほしい」と嘆く。

選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる法律が施行されたのは2016年。例えばいま21歳の大学3年生は2年前、有権者として初めての国政選挙となる参議院選挙を経験し、今回は初めての衆議院選挙だ。だが、学生の間ではまったく盛り上がっていない。

なぜ選挙に行かないのか。文化社会学部北欧学科3年のTさん(20)は、「知識がないことが理由の一つ」という。中学校や高校では、社会科や公民科の授業で政治の仕組みは習ったが、それが実際の政治のニュースとつながらない。「幼いころから(現実の)政治について学んだり触れたりする機会を作ることが大切では」と話した。

健康学部健康マネジメント学科1年の大森新太さん(18)も、「(政治ニュースで使われている)言葉もわからないし、知る機会も少ない」と戸惑い、こう問いかける。「そもそも大人は、どこで(政治ニュースの言葉の)意味を知るんですか?」

■政治に関心を持つには?

学校の政治教育が、制度などに関する知識の暗記にとどまっているのでは?実はこうした批判は、これまで何度も繰り返されてきた。そこで選挙権年齢の引き下げと同時に導入されたのが「主権者教育」だ。「現実の政治課題をより積極的に取り扱うことで政治への関心を高めること」(主権者教育の指導資料)が謳われたが、学生の話からは、あまり機能していないことが伺える。

文学部歴史学科3年の福原伊吹さん(21)は、ある政治家が「若者が政治に関心がないことは、悪いことではない。それだけ日本で平和に暮らしているということだ」と語る動画が印象的だったという。

この動画は、ネットを活用する通信制高校「N高等学校」の「政治部」での講演だ。N高政治部は「主権者教育の一環として政治家と直接に触れ合う機会をつくり、生徒に政治を身近に感じてもらう」(同校HP)目的で発足。この動画はTwitterやTikTokなどで拡散され、Youtube公式チャンネルの動画再生回数は154万回を突破した。

福原さんは長野県栄村出身で住民票はそのままだ。今回の総選挙でも、帰省して投票する予定はない。「自分の投じた一票で何が変わるのか、わからない」と困惑している。それでもN高政治部の動画に、ちょっとだけ心が動いたという。「政治に対する若者の無関心を上から目線で非難するのではなく、肯定的に捉えてくれたのが新鮮だった」。

「SNSをもっと活用して、情報が自然に入ってくるようにしてほしい」と話すのは、文学部歴史学科2年の原翔誠さん(20)。「テレビ離れが進み、わざわざ自分から政治の情報を得ようという人は少ない」と分析し、「政治家は年齢層が高いから情報の伝え方も前時代的」と「年代の差」の影響も指摘する。

■若者が求める政策って?

政治経済学部経済学科3年の鴻巣虎ノ介さん(21)はこれまで3回、投票を経験した。立候補者の公約やコメントを比較し、「親世代や高齢者へ向けたものばかり。若者向けの政策はほとんどない」と感じたという。健康学部の大森さんも、「今の議員さんは若者の意見を取り入れてないように思える」と頷き、「SNSなどを取り入れ、幅広い年代の意見を聞いてほしい」と訴える。

一方、「昨年の10万円の給付金の時は関心を持った。明らかに自分にメリットがあるときは興味が湧く」と話すのは、健康学部健康マネジメント学科1年の花田拓哉さん(19)。「将来、結婚して子供が生まれたら、子育て政策とか自分で調べることも多くなるかも」とも話した。

社会の課題を自分事として捉えられると、政治はより身近になるのかもしれない。

■留学生から見ると?

日本と同じく18歳から選挙権を持つ韓国からの留学生で、政治経済学部政治学科3年の朴賢彬さん(20)によると、「韓国では、10代や20代の投票率は30代とあまり変わらない」という。「年代によって政治への関心にばらつきがあるって、日本に来て初めて知った」。

日本と韓国の差の理由は何か。同じく韓国出身で文化社会学部広報メディア学科3年クァク・ジュヨンさん(20)とジョン・ハヨンさん(21)は、国のリーダーの決め方による影響を指摘する。

日本の総理大臣が議員の中から選ばれるのに対して、韓国の大統領は国民の中から選出される。大統領選の投開票日には、ほぼすべてのテレビ各局がバラエティー番組のように工夫を凝らし、開票速報が一日中、放送される。そんな韓国と比べると、日本の選挙は「閉鎖的」に映る、と2人はいう。

健康学部健康マネジメント学科2年のムラド・ジョアナさん(22)は、「大きな選挙が近いのに日本の学生はその話をしない。すごく不思議に思う」と感じている。

ムラドさんの母国であるサウジアラビアは絶対君主制で、国のトップを決める選挙はない。それでもアメリカやフランスなど関係が深い国の選挙への関心は高く、SNSやネットニュースで常に情報を得ている。「自分の国について色んな意見を聞けるのに、関心を持たないのはもったいない」と嘆く。

日本を愛し、その愛を深めようと様々な情報を取り入れているムラドさんは、「首相が変わって、今は日本全体が変化しようとしているところ。それを感じられる私は幸運だと思う」と嬉しそうに話した。

議員、政策の対象、投票に行く人のいずれも高齢者に偏り、「シルバー民主主義」とも揶揄される日本。18歳選挙権が導入されても、若者と政治の距離はまったく縮まっていない。若者と社会の課題をメディアや学校教育がどうつなげられるか。そして政治に参加できることの意義を、どう実感させられるのか。今回の取材を通して、私たち自身も政治への関心が少しだけ高まった。

「若者と政治」について、笠原ゼミでは今後も継続的に追いかけていきます。


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