永井真人

県議会議員〈横須賀市〉

永井 真人

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「文化安全保障」という視点で考える、対馬・和多都美神社の異例対応

2025年03月25日 07:30

 

先日報じられた、長崎県対馬市の和多都美神社が観光目的での境内立ち入りを全面的に禁止するというニュースが、多くの関心を集めました。

 

「極めて重大かつ許されない不敬行為」で「観光目的での参入を全てお断り」 対馬の神社が異例声明(ヤフーニュース)

 

 

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詳しくは発表されていませんが、背景には外国人による「極めて重大かつ許されない不敬行為」の発生があったとのことです。神社側は声明で、「観光目的での参入を全てお断りする」と強い姿勢を示し、海中鳥居を含む写真撮影やライブ配信なども全面的に禁止するという異例の対応に踏み切りました。

 

この事態は、一神社の問題にとどまらず、日本全体が直面している“文化と観光”の関係性の課題を浮き彫りにしたと私は考えています。

 

 


■神社は観光地ではない——でも、かつては信仰と観光が共存していた

 神社は本来、信仰の場です。しかし、歴史を振り返れば、伊勢参りや出雲詣のように、信仰を前提とした「観光」が日本各地に人の流れを生み、地域を支えてきたという側面もあります。

 

 

 なぜそれが成り立っていたかといえば、日本人の多くが、自然と「神様を敬う心」「場をわきまえる感覚」を共有していたからです。神社が無料で誰でも参拝できるのも、その信頼の文化の上に成り立っている仕組みです。

 

 しかし、現在のインバウンドは、文化的背景の異なる人々が「観光地」として神社を訪れることが前提になっているため、必ずしも敬意や理解が共有されているとは限りません。

 


■対馬という場所の特殊性と、価値観の衝突

 特に対馬という地域の地理的・歴史的文脈も無視できません。韓国に非常に近く、過去には仏像盗難事件や「対馬は韓国の領土」といった一部の主張もあり、国境に近い宗教施設が文化的摩擦の最前線に立たされている現実があります。

 

 今回の和多都美神社の対応は、単なるマナー違反への対処ではなく、文化的主権と信仰の尊厳を守るための苦渋の決断であったと受け止めるべきだと思います。

 


■警察・制度が対応しきれない現実

 残念ながら、今回のような不敬行為に対して、警察や法制度が十分に対応できなかったことも大きな問題です。

 

 現在の日本の法体系には、「宗教的冒涜」そのものを取り締まる明確な法律は存在しません。器物損壊や軽犯罪法、住居侵入などでの対応にとどまるため、神聖な空間を守る制度的な備えが極めて脆弱なのが現状です。

 


■国として取り組むべき「文化安全保障」

 私は、今回の出来事を通じて、国家レベルで「文化安全保障」という視点を導入すべき時期に来ていると感じています。

 

 経済安全保障や防衛と同じように、その国の文化的・精神的資産を守ることも、安全保障の一環であるという考え方です。

 

 具体的には、次のような対策が必要です:

 

【国ができる主な対策】

  • 文化・信仰空間を守るための法整備(例:宗教施設への不敬行為への罰則)
  • 外国語によるマナー啓発と現地案内の徹底
  • 警察と宗教施設との連携強化、通報体制の整備
  • 文化庁・観光庁の連携による“文化観光”ガイドラインの策定
  • 外交ルートを通じた出発国での文化理解の啓発

【現状の問題点】

  • 外国語案内や啓発は一部整備されているが、敬意の教育には踏み込めていない
  • 警察の対応は法的限界があり抑止力になっていない
  • 「文化財保護法」はあっても、信仰空間の尊厳を守る法的枠組みは未整備
  • 国レベルでの包括的対応が制度的に存在していない

■持続可能なインバウンドのために

 経済成長のためにインバウンドを推進することは理解できます。しかし、その根底にあるのは「日本の文化の魅力」ですそれを守ることなくして、持続可能なインバウンドなどあり得ません

 

 

 むしろ私は、文化を守る姿勢こそが、世界に対して日本の本質的な魅力を伝えるメッセージになると信じています。

 

 観光客の数を増やすこと以上に、「日本の文化に敬意を持って訪れてくれる人を増やす」ことが、これからの“文化立国・観光立国”の本質的な在り方ではないでしょうか。

 


文化を守ることは閉ざすことではありません。
文化を守るからこそ、正しく開ける。
そのバランスを国家としてどう築くか——それこそが、私たちがいま問われている課題です。

 

 

 

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