地域の社会と消費 守れ商店街

2018年12月24日武蔵大学社会学部メディア社会学科4年 漢人薫平

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2018年、インターネット空間はこれまで以上にその存在感を増し、我々の生活に大きな影響を与えてきた。特にインターネットショッピングは私たちの消費生活を一変させたといっていい。消費空間はリアルからネット上へと移り、これまで中枢を担っていたスーパーマーケットやショッピングモール、百貨店までもが窮地に立たされた。それらの変動にともない、地域の消費と社会全体が大きな問題に直面している。

〈ネットショッピングによる小売りの淘汰〉

オンラインショップの大手サービスでは、日米欧のネット通販で高いシェアを持つ「アマゾン・ドット・コム」を筆頭に、「楽天市場」や「ヤフー!ショッピング」などがその勢いを強めた。それにともない国内小売業界の危機感は高まっている。百貨店やショッピングセンターなどの商業モールなどへの影響は大きく、国内百貨店の総売上高は20年前から4割減少した。今年2月、筆者が住む千葉県船橋市の西武船橋店も、50年余りの歴史に幕を下ろした。



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▲船橋市の玄関口である船橋駅前で長年の間市民に慕われていた。
16年度にはピーク時の3割程の売り上げに落ち込んだ。(西武船橋店跡地 筆者撮影)

ネットショッピングは品揃えの豊富さが特色だ。衣料品や家電製品に始まり、近年では食品までにもその手を広げている。アマゾンの日本法人は昨年春に生鮮食品を配達するサービスを始めた。スーパーなど小売はその強みを奪われる形となり、業界には一層厳しい風向きとなったといえる。


〈商店街の危機は地域の危機〉

そしてネットショッピングの攻勢により危ぶまれる小売業界の根元で苦境に立たされているのが、これまで地域の消費社会を支えてきた商店街だ。

20世紀初頭、都市人口が急増する日本社会において、地域の経済とコミュニティの両立を図るために提唱されたのが「商店街」という理念だ。生鮮三品(精肉・青果・鮮魚)をはじめとする専門性の高い小売店が一定の地域に集約されることで人々も集まり、コミュニティの「交流」と「購買」の2つを要としての役目を果たしていたのである。しかし、高度経済成長での大量消費社会においてスーパーマーケットが増加。それらとの競争で疲弊した零細小売を吸収する形でコンビニエンスストアが誕生し、商店街は徐々に日本の消費社会から姿を消していった。



そして現代、中心市街地における商店街の衰退・空洞化が問題になって久しい。中小企業庁の商店街実態調査(平成27年度)では、商店街の平均店舗数が54.3店なのに対し、平均空き店舗数は5.3店、およそ10店舗のうち1店舗は空き店舗という計算だ。日経新聞の消費者アンケート(千葉県内の商店街を対象、調査数1000人)によると、個人商店などの個店を「全く利用しない」と答えた割合は51.9%にのぼる。一方で、ネット通販を利用した経験のある人は90.5%に達している。つまりスーパー、コンビニに次いでオンラインショップが商店街の前に立ちふさがっているのが現状だ。店頭での販売にとどまらず、通販や宅配を始める個人商店も見られるようにはなっているが、後追い感は否めず、先行きの不透明さが際立つ。



消費の中心地となっていた大型店がネットショッピングによって淘汰されつつある。同時に地域の消費社会は大きな打撃を受けている。60年代のモータリゼーションによる移動手段の広域化は地方郊外に大型店を濫立させた。それらが撤退しつつあるいま、車を持たない高齢者は買い物の手段を失ってしまったのだ。農林水産省によると「65歳以上の4人に1人が、すでに買い物難民となっている」とされている。最寄りの小売店まで直線距離で500メートル以上あり、自動車を利用できない65歳以上の人口は2015年時点で全国に825万人いる。驚くべきは地方の過疎地のみならず、東京や大阪などの都市圏の方がその割合は顕著だという。しかしインフラが整備された都市圏では他の交通手段を利用する手もあるだろうが、地方ではそうはいかない。一刻も早い対策が必要である。

〈商店街の価値の再認識を〉

現代の商店街には商店主本人に意欲がない、商店会が解散しているなどの問題も散見されるが、再生に挑戦する商店街は多い。「商店街活性化の三種の神器」といわれる「バル・まちゼミ・100円商店街」は全国的に開催され注目を浴びている。単独での再生が難しければ、学生や自治体、市民による開発業者との連携が肝である。商店街は「地域交流機能」や「課題解決機能」など多くの機能を持つ。2011年3月11日の東日本大震災では、地域に根差した商店街において、市民を中心として立ち上げた共同体が復興を進めるなどの役割を発揮している。これらの機能を活用し、少しでも商店街ににぎわいが戻れば、地域コミュニティの希薄化などの問題が改善に向かうだろう。今年大きな問題となった、児童虐待や孤独死問題をはじめとする地域課題解決の助けになってほしい。

筆者が足を運ぶ千葉県船橋市の芝山団地商店街は全部で14店舗というごく小規模な商店街だ。年に2回、地元高校生らの協力を仰ぎイベントを開催している。イベント当日はOB・OGの大学生や社会人もボランティアとして参加し、学生たちやイベントを楽しむ子供たちによって交流の花が咲く。商店街のこうした小さな活動が、やがて地域への愛着を呼び起こすきっかけとなり、果ては地域全体ににぎわいが戻ってくれることを願う。

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▲年に数回行われるイベントには子連れを中心に多くの来場者を数える。
この日はハロウィーンを多くのコスプレした子供たちが楽しんだ。
(10月27日 千葉県船橋市芝山団地商店街 筆者撮影)
参考文献:
  • 「(いちからわかる!)生鮮食品のネット通販、最近増えてきたね」『朝日新聞』、2018年2月20日
  • 「西武船橋店が閉店、駅前「地の利」どう生かす、消費の変化へ、対応不可欠。」『日本経済新聞』、2018年3月1日
  • 「千葉県内の商店街、空き店舗率11%、昨年度、「後継者難」63%。」『日本経済新聞』、2018年5月12日
  • 「廃業止まらない中小企業 休廃業・倒産は毎年4万社近く」『週刊朝日』、2018年11月9日
  • 中小企業庁「平成27年度商店街実態調査報告書」

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