コロナ禍で輝く職業人④

2021年06月23日東海大学 笠原研究室

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 新型コロナウイルスの感染は、なかなか終息の兆しが見えません。苦境を訴える悲鳴が、社会のあらゆる場所から聞こえています。しかし元来、「危機」という言葉は、「危険」と「機会」のふたつの面を持っていると言われます。そして「ピンチはチャンス」と前向きに捉え、職場をまぶしく照らしている人もいます。今回、我々はこうした「コロナ禍で輝く職業人」にお話を伺い、「危機」を乗り切るパワーをもらってきました。また、チャレンジの中でみえてきた課題や政治・行政に対する期待、要望についても伺いました。

(東海大学 文化社会学部 広報メディア学科 笠原研究室)

④遠隔授業の利点、前向きに挑戦 斉木ゆかり教授(62)、北村よう教授(59)

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左:研究室で遠隔授業の準備を行う斉木教授。右:対面形式と遠隔形式を組み合わせて授業を行う北村教授。手前はカメラ内臓スピーカーフォンで、教室内の映像と音声、そして遠隔で参加する学生の音声を共有できる。(いずれも6月3日、平塚市の東海大学湘南キャンパスで)

 コロナ禍の大学では、多くの授業が遠隔形式で行われることになった。ほとんどの教員にとって初めて経験する授業形式。対面形式と比べたデメリットを強調する声がメディアにあふれた。だが、遠隔形式ならではの利点を前向きに捉え、学生との交流に積極的に活用した教員も少なくない。

 「ここまで色んなことができるとは思っていなかった」。東海大学湘南キャンパス(平塚市)で、留学生のための日本語クラスを担当する斉木教授と北村教授は口をそろえる。

 日本語作文の授業では、これまで紙で提出された課題を、ネット上のアプリで解答する形式に切り替えた。複数の学生が同じ間違いをした場合、解説をコピーして提示できるため、「紙の答案に書き込むよりずっと細かく解説できる」と北村教授は話す。

 「対面での一斉授業よりも、学生と1対1の関係が非常に作りやすい」と手ごたえを語るのは斉木教授だ。尊敬する人について述べる課題では、ロシア人留学生が義理の母について書いてくれた。結婚後に夫を亡くし、さらに自宅を火災で失うも、息子を育て上げたという。名前の由来を書く課題では、山登りの好きな父親について情感たっぷりに述べた留学生がいた。

 こうした解答を引き出すため、斉木教授は教材に様々な工夫を施している。授業の冒頭で、自身の近況などの雑談を述べたり、飼っている犬の写真を学生へのコメント欄でシェアしたり。「学生に孤立してほしくなかった。つながってるよ、という感じを出したかった」と狙いを語る。

 斉木教授は約40年、北村教授は約30年のキャリアを持つが、二人にとっても遠隔授業は初めての挑戦だった。昨年度、授業開始の1か月前に大学から突然、遠隔形式での実施を告げられた。「無理無理、そんなスキルない」(斉木教授)、「で、できるかな」(北村教授)と不安なスタートだったが、「転んでもタダでは起きない、面白がっちゃう」(斉木教授)と前向きに捉えた。

 文法を解説するパワーポイント(プレゼンテーションソフト)のスライドを作成しながら、自身の指導方法を改めて振り返ったという北村教授は、「どうすればもっと理解しやすいかを考えたことで、私自身の可能性を引き出せたかもしれません」と話す。中国人留学生の葉クンプンさん(21)は北村教授の授業を、「パワーポイントがシンプルな作りで、簡単な言葉で説明してくれるのでわかりやすい」と評価する。

 もちろん、遠隔授業は良い面ばかりではない。文化社会学部の陳羽欣さん(21)は、「遠隔授業はやる気が出ないし、授業内容が頭に入ってこない」という。日本でバイトしていた飲食店を辞めて今、母国の中国で両親と暮らす。「自宅で一人で受ける授業は寂しい。日本の友達とはスマホでしか繋がれない」。こうした訴えに、「胸が痛くなる」と斉木教授。昨年度秋学期からは徐々に対面授業も増えてきた。それでも、遠隔授業に対応する中で様々なスキルを身につけ、「多様な学生への対応の幅が広がった」と捉える。「対面と遠隔、それぞれの利点を生かしていきたい」という。

 斉木教授は今、キルギス在住の学生に週1回、ウェブ会議システム「Zoom」で日本語を教えている。「オンラインのスキルがあったからこそできた。挑戦して見えてくるものがある」と力を込める。

【政治・行政に一言】・斉木教授「遠隔の特例 コロナ後も継続を」

 コロナ以前は、遠隔授業を行える単位数の上限が決められていました。昨年度から特例として、この上限が撤廃されています。文科省には、感染が終息した後も、この特例を継続して欲しい。大学に来ることが難しかった学生が、遠隔授業には積極的に参加する例が少なくないからです。コミュニケーション能力に自信がない。生活リズムを整えるのが難しい。学生は様々な事情を抱えていますが、遠隔授業は授業参加のハードルを下げるのです。ラジオを聴いていると、不思議と1対1でコミュニケーションをしている感覚になります。遠隔授業にもそれに近い効果を感じます。学生一人ひとりが何を考えているか、対面授業よりも伝わります。顔が見えないからこそ、本音が言えるのかもしれない。遠隔授業によって学生の学び方は多様になりました。こうしたメリットを積極的に捉えて欲しいのです。

・北村教授「遠隔/対面 自主性に委ねて」

 文科省は、「大学生の多くは対面授業を望んでいる」という前提で、各大学に対面授業を促しています。しかし大学生の実態は、もっと多様です。確かに教員としても、対面授業で学生の反応を直接確認しながら授業を行えるのは嬉しい。でも、感染を怖れて通学をためらう留学生も多いし、そうした学生に対して「大学に来て」と言っていいものなのか、悩ましいところ。対面か遠隔か、どちらを望むのかは各大学や学生の置かれた状況によって様々です。だから、それぞれの自主的な判断に委ねてもいいのではないでしょうか。また遠隔授業の設備は、だいぶ整備されてきたとは言え、まだまだ十分とは言えません。各大学の自助努力も必要ですが、政治や行政がインフラ面をもっと支援してもいいのではないでしょうか。

【取材後記】3年 鄭(テイ) エテイ

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 対面と遠隔、それぞれにメリットとデメリットがあります。私は昨年度、中国・北京の実家で遠隔授業を受けていました。今年2月に日本に戻ってきましたが、日本で遠隔授業を受けるのでは、中国にいるのと変わりません。やっぱり対面授業で日本の大学の雰囲気を感じたい。でも遠隔だと、授業中にわからない言葉を調べることができるし、録画だと何回も聞くことができます。自分のペースで受けられるのが、遠隔のメリットです。今回、初めて教える側に立って考えましたが、先生方はとても大きな責任を負っていると感じました。遠隔授業は、特に年配の先生方にとって大変な挑戦だったことがわかりました。昨年度の春学期が始まった時は、授業も1か月延期になり、先生方も学生もみな、どう対応するのかわからなかった。それと比べると、現在の状況はだいぶ良くなりました。対面の授業が増えているし、先生も遠隔授業に慣れてきました。教育が停滞しているわけではありません。

3年 銭 肖男(セン・ショウナン)

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 遠隔授業は学生だけでなく、先生方にとっても初めての挑戦だったこと、その苦労がよくわかりました。今、大学は対面授業を徐々に増やしています。でも正直に言うと、私も対面より遠隔の方がいいと思います。日本では街を歩く人が減っていません。日本人はコロナウイルスの厳しさをまだしっかりと直視していないのではないでしょうか。中国では街をロックダウンして封じ込めました。日本人ももっと危機感を持つべきではないでしょうか。ですから、日本に戻らず、母国で遠隔授業を受けている留学生の気持ちもよく理解できます。取材は「Zoom」で行いましたが、北村先生は画面越しでも優しく、とても話しやすい雰囲気でした。


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