コロナ禍で輝く職業人②

2021年06月18日東海大学 笠原研究室

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 新型コロナウイルスの感染は、なかなか終息の兆しが見えません。苦境を訴える悲鳴が、社会のあらゆる場所から聞こえています。しかし元来、「危機」という言葉は、「危険」と「機会」のふたつの面を持っていると言われます。そして「ピンチはチャンス」と前向きに捉え、職場をまぶしく照らしている人もいます。今回、我々はこうした「コロナ禍で輝く職業人」にお話を伺い、「危機」を乗り切るパワーをもらってきました。また、チャレンジの中でみえてきた課題や政治・行政に対する期待、要望についても伺いました。

(東海大学 文化社会学部 広報メディア学科 笠原研究室)

②今春から柔道整復師 倉沢遥希さん(22)

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カルテを作る倉沢さん(6月4日、長野県上田市の上田整形外科で。倉沢さん提供)

 倉沢さんは柔道整復師の卵だ。この春から長野県上田市の整形外科内科で働き始めた。コロナ禍で実習、国家試験、そして社会人のスタートを経験したが、「他の世代とは違う経験ができたとプラスに捉えている」と語る。

 通っていたスポーツ医療の専門学校では通常、最終年の3年生に実習が行われる。だが受け入れ予定だった接骨院で実習の1週間前にクラスターが発生し、実習先が変更になった。「この先、無事に資格を取って就職できるのか」と不安に襲われた。しかし、代わりの実習先では特別に、医療費の計算や領収書の作成方法などを教えてもらえた。突然の実習先変更やコロナ禍での実習を労わる、病院側の配慮だった。「実習先が変わったからこそ貴重な経験ができた」と振り返る。

 国家試験の内容も、実技ではなく、処置方法を口頭で説明する方式に変わった。実技なら体で覚えればいいが、説明するためには処置方法を細かい部分まで暗記しなければならない。「机に向かって実技試験の練習をするのは違和感があった」と苦笑いを浮かべるが、「従来の実技試験より知識が定着した」という。勤務先では今年4月から内科が新設され、新型コロナの感染が疑われる患者も受け入れている。感染リスクもあるが「医療現場の最前線にいるという自覚が芽生えている」とやりがいを感じている。

 将来は開業の夢に加え、専門学校で教員として働くことも視野に入れる。幅広い知識を得ようと整形外科専門医や理学療法士など、別分野の勉強会にも積極的に参加。多くがオンラインで行われており、「首都圏で活躍している先生の話を自宅で聞けるのはラッキー」と笑顔だ。「豊富な知識や経験が自分の将来を切り拓く」。コロナ禍すら前向きに捉える倉沢さんの未来は明るい。

【政治・行政に一言】倉沢さん「コロナをハンデにしてはいけない」

 就職という人生の岐路をコロナ禍で経験しました。学校や行政にはこれまでの経験を生かし、後輩たちが苦労しない制度を作ってほしいです。コロナ感染者が急増し始めた2020年春、私の学校でも授業がオンライン化しました。その時期には、本来なら包帯の巻き方など、柔道整復師として最低限身につけておかないといけない技術を教わるのですが、実技練習が禁止されていたため、ビデオで見るだけでした。対面授業が再開してからは国家試験の対策や実習への準備を急がなければならなかったため授業で学ぶことができず、基礎ができていないことで病院にも迷惑をかけてしまいました。後輩たちがそうならないためにも、何をどう教えるのか、優先順位と方法をしっかり考えてあげてほしいと思います。また、これからの地域社会を担っていく学生が、コロナ禍で学生生活を送ったことでハンデを負うことは絶対にあってはならないと思っています。各地方の行政にはそれぞれの世代にヒアリングを行い、適切で効果的な施策を行ってほしいと思います。

【取材後記】4年 宮原 颯太

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 倉沢さんのとことん前向きな姿勢に感銘を受けました。大事な学生生活最後の1年を混乱の中で過ごし、不安や焦り、社会へのいら立ちもあったことでしょう。しかし決して卑屈にならず、おかれた環境で必死に努力し、夢を叶えた姿から学ぶべきことが僕自身、沢山ありました。また、コロナ禍を乗り越えた若者には底知れないエネルギーが溜まっているのではないかと感じました。この期間に溜まったストレスを良い方向に発散できれば、社会にとってとても大きなパワーになります。だからこそ倉沢さんの語っていた通り、若者が希望を失わないような対策をすることが行政には求められると考えます。倉沢さんはヒアリングを行うことで世代にあった対応ができると訴えていました。そのお話を聞き、型にはめるのではなく、柔軟な対策、対応が重要になっていくのだと改めて感じました。僕自身、来年度からは倉沢さんと同じ長野県で働き始めます。倉沢さんのような活力みなぎる若者の一員として、地域社会を盛り上げていきたいと思っています。


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