コロナ禍で輝く職業人③

2021年06月21日東海大学 笠原研究室

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 新型コロナウイルスの感染は、なかなか終息の兆しが見えません。苦境を訴える悲鳴が、社会のあらゆる場所から聞こえています。しかし元来、「危機」という言葉は、「危険」と「機会」のふたつの面を持っていると言われます。そして「ピンチはチャンス」と前向きに捉え、職場をまぶしく照らしている人もいます。今回、我々はこうした「コロナ禍で輝く職業人」にお話を伺い、「危機」を乗り切るパワーをもらってきました。また、チャレンジの中でみえてきた課題や政治・行政に対する期待、要望についても伺いました。

(東海大学 文化社会学部 広報メディア学科 笠原研究室)

③果物専門の産直サイトを起業 樋泉侑弥さん(23)

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契約農家と共に収穫後の桃の箱を持つ樋泉さん(2020年7月中旬、山梨県南アルプス市で。樋泉さん提供)

 自然農法で生産し、収穫量全体の約15%しか採れない「大玉桃」は2600円から。通常より収穫を遅らせる「追熟」で甘みを増した「大粒さくらんぼ」4種MIXは3500円から。果物専門の産地直送オンラインストア「Bonchi」にはスーパーの数倍の価格が並ぶが、売れ行きは好調だ。地元・山梨の最高峰の果物の魅力を、産地直送で日本全国、そして世界中に届ける。そして「農家を救いたい。山梨を救いたい」。昨年4月に起業してこのサイトを立ち上げた樋泉さんは、会社に込めた理念を熱く語る。

 起業の原点は、オーストラリア・シドニーでの留学だ。2016年の高校卒業から2年間、語学学校に通いながらカフェや日本料理屋で働いた。そこで、日本の農産物のブランド力に気づいた。「だけど、日本の農業の凄さに気づいている人が、日本国内に少ない」。質の高い果物を、産直で届ける。それを、専門のオンラインストアで展開したらどうだろう。商機を見出した。帰国後は企業経営を実践で学ぼうと外資系IT企業に入社し、2年後に「Bonchi」を立ち上げた。

 コロナ禍での出発。だが、それが逆に追い風になった。樋泉さんのアイデアは巣ごもり需用をがっちりつかんだ。有名クラウドファンディング仲介サイト「Makuake(マクアケ)」で購入者を募ると、51日間で952人のサポーターから約768万円が集まった。同サイトの農作物カテゴリーで過去最高額だ。予想外の大反響に、「田舎からでも業界トップに挑戦できる」と手応えをつかんだ。

 「Bonchi」が展開する事業のもう一つの柱が、農家育成プログラムだ。35歳以下の若者に、同社が取引する8つの農家への就農を紹介・サポートする。「果物農家はワークライフバランスが充分にとれる。農業に興味がなかった人たちも引きこみたい」。人手不足に悩む農家と、若い世代の就農希望者とをマッチングさせる試みだ。

 「今後3年間で、契約農家を現在の8軒から100軒以上にしたい」。より新鮮な果物を、より多くの人に届ける。そして最高峰の技術を次世代に継承する。日本の果物の可能性を、樋泉さんは全力で追求している。

【政治・行政に一言】樋泉さん「オンラインの可能性もっと読み取って」

 オンライン販売などのE C(イー・コマース、電子商取引)は今、コロナ禍で売り上げが伸びています。この時代の流れや可能性を政治や行政が読み取り、もっと促進してほしいです。web構築の費用などを支援してもらえると嬉しい。また、農業はリスキーな仕事ですが、国にとって必要不可欠です。でも、農家の現状やライフスタイルが若い人たちに伝わっていない。今の段階では、行政がインターネットをどう活用して、どういう政策を増やしていくかというステージまで行けていない。僕たちは農業の後継者育成を社会全体の問題として捉え、解決しようと頑張っています。行政の人たちも、僕たちともっと積極的に交流を持ちかけてほしい。

【取材後記】4年 鈴木 亮

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 農業従事者の平均年齢は65歳を超えています。若い人達の力がどれほど重要かを痛感しました。そして、若者の就農のサポートを展開している企業があることも知ることができました。樋泉さんの農家育成プログラムでは、現役の農家から伝統的な技術と知識を直接引き継ぎ、独立後もそれを継承できます。また畑や機械を引き継ぐことで金銭的なリスクを減らし、就農しやすいメリットもありました。今後は観光農園にも取り組んでいきたいそうです。未来を見据えた農家育成は、自分と同じ世代の若者を、より良い就農へと導いてくれると思いました。これから果物が美味しい季節を迎えます。「Bonchi」が推す大玉桃やさくらんぼ、シャインマスカットを、僕も味わってみたいです。


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