コロナ禍で輝く職業人⑤

2021年06月25日東海大学 笠原研究室

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 新型コロナウイルスの感染は、なかなか終息の兆しが見えません。苦境を訴える悲鳴が、社会のあらゆる場所から聞こえています。しかし元来、「危機」という言葉は、「危険」と「機会」のふたつの面を持っていると言われます。そして「ピンチはチャンス」と前向きに捉え、職場をまぶしく照らしている人もいます。今回、我々はこうした「コロナ禍で輝く職業人」にお話を伺い、「危機」を乗り切るパワーをもらってきました。また、チャレンジの中でみえてきた課題や政治・行政に対する期待、要望についても伺いました。

(東海大学 文化社会学部 広報メディア学科 笠原研究室)

⑤オンラインで新たな「繋がり」 ヨガ講師 大島真由美さん(45)

kasahara210625_1.jpg
対面形式でヨガを教えていた頃の大島さん(2019年、千葉市中央区のスタジオで。大島さん提供)

 「パジャマのまま気軽に参加できる」「オンラインになって、先送りしていた一歩を踏み出して始められた」。喜びの声が、全国の受講生から届く。大島さんは、千葉市中央区で経営していたヨガ教室を、今年4月から全てオンライン形式に切り替えた。「壁を取り払うチャンス」と大島さん。ウェブ会議システム「Zoom」が、受講生との新しいコミュニティを構築した。

 ヨガに出会ったのは26歳の時。マドンナの体形維持の秘訣と雑誌で知った。気軽な気持ちで始めたが、徐々に奥深さに魅了されていった。その後、結婚や出産などで離れていたヨガを再開したのは、育児ストレスのどん底にいた時だった。鬱状態の中で過去のトラウマもよみがえり、PTSDというストレス障害を発症していた。当時0歳だった長男は自分の両親と夫に預けた。そんな折、ふとヨガを再開すると、気持ちに余裕が生まれ、光が差した。「自分の経験を活かしたい。ヨガの素晴らしさを伝えたい」。国際的なヨガインストラクターの資格「全米ヨガアライアンス認定200時間」を取得し、2019年3月、自宅でスタジオ「Yoga Amrita(ヨガアムリタ)」を開いた。

 不妊に悩む女性をサポートする「妊活ヨガ」がクラスの中心だ。不妊治療はメディアに様々な情報が溢れるが、「情報に踊らされず、本質を知ってほしい」と訴える。「女性の心と体はみな全く同じでは無く、人それぞれの向き合い方がある」。ヨガは「生き方そのもの」、とも説く。対面の教室は昨年9月にクローズした。寂しさや不安もあったが、ここでも「足るを知る」というヨガの教えに救われた。欲張り過ぎず日々に満足しよう、と決断できたという。

 「オンラインになったことで遠方からも参加できるようになった」。大島さんのクラスには、山形県や宮崎県、北海道からも受講生が集まる。ヨガの語源は、馬車と馬を繋ぐ「くびき」。ここから「自分と繋がる。」という意味が派生したという。コロナ禍で繋がりが細くなる怖さがあったが、オンライン化で新たな繋がりが生まれた。日々を受け入れ、自分に寛ぎ、毎日を楽しむこと。それが大島さんの輝きの源だ。

【政治・行政に一言】大島さん「IT化遅れる行政 期待できる支援なし」

 (コロナへの対応は)民間の方が逆手にとり、進んできたと感じます。行政のサポートの担当者も、このコロナ禍は初めての経験なので、わからないことばかりでした。政府も初めてのことなので、難しいと感じます。また(政治も行政も)IT化が民間よりも10年近く遅れている現状を考えると、申し訳ありませんが期待できる支援はありません。オンラインでも運動の効果がある、と発信する程度でしょうか。

【取材後記】3年 戸森 生実

kasahara_0625_m.jpg

 政治や行政のIT化の遅れを指摘する報道を、頻繁に目にします。こうした現状を考えると、確かに大島さんがおっしゃるように、効果的な支援はあまり期待できないのかもしれません。しかし逆に言えば、IT技術への関心と理解が飛躍的に進んだコロナ禍は、行政がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める大きなチャンスではないでしょうか。コロナ以前はほとんど馴染みのなかったオンライン会議などのテレワークや、私自身も初めて体験した遠隔授業、電子マネーでの決済。コロナ以後は、社会や経済のあらゆる活動がリモート中心となりました。この変化に私は困惑するだけでしたが、大島さんはオンラインヨガに活路を見出し、積極的に挑戦しました。大島さんのように、ピンチをチャンスに変える前向きな姿勢を、政治や行政にも求めたい。コロナ禍の危機的状況だからこそ、DXを進める大きなきっかけとして捉えて欲しいです。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加