■第4回 「地域のために」 広がる活動の輪
2022年03月15日
第4回は、駅周辺の企業や大学などが一体となって街づくりを進めている様子についてお伝えします。
(東海大学 文化社会学部 広報メディア学科 笠原研究室)
駅南口に響くデッキブラシの音は、周辺の利用者にとって聞き慣れた音だ。毎月第3金曜日の午前10時から40分間行われる清掃活動には、毎回20名ほどが参加する。床や壁に付いた鳩の糞の掃除、路上飲みで増えた空き缶などのごみ拾い、そして季節に合わせた花壇の植え替えや水やりが主な内容だ。活動の発案者である昭和音楽大学の寺川光洋さん(67)は「清掃だけでなく、周りとのコミュニケーションが活動のテーマ」といい、「活動が誰かのためになっていると思うと苦じゃない」と笑顔だ。
この活動を実施しているのは、「新百合ヶ丘エリアマネジメントコンソーシアム」。駅前にキャンパスのある昭和音楽大学と日本映画大学のほか、高級住宅地「王禅寺地区」など駅前の宅地を開発した三井不動産、小田急電鉄、そして駅周辺の地権者などが中心となって2018年4月に設立され、約100の企業や団体が加盟する。事務局長を務める三井不動産の内藤達久さん(60)は、「コンソーシアムができて地元の関係企業や団体が一体となったことで、街を盛り上げる事業が活性化し、充実してきた」と成果を実感する。
そうした事業の一つが、「関東最大級のマルシェ」を謳う「しんゆりフェスティバル・マルシェ」だ。月に1回、土日の2日間にわたり、駅前のペデストリアンデッキに市内外の飲食店など約60店がテントやキッチンカーを並べ、地元で収穫された野菜なども販売する。コンソーシアムが設立された2018年に始まり、ほぼ毎月開催されてきた。コロナ禍では中止が続いたが、それでも昨年11月には1年ぶりの開催にこぎつけた。
清掃活動もコンソーシアム設立と同時に始まり、それから毎月欠かさず続いている。寺川さんは「きれいな街にしたいという気持ちはみんな一緒だった。お金をかけずにできるし、やっていて気持ちがいい。その共感があったからこそ大きな抵抗もなく始められたし、続いている」と話す。通行人に「いつもありがとう」と言われることも増え、それがやりがいになっているという。活動に参加する昭和音楽大学総務部長の久松剛さん(60)は、「地域の発展なしに大学の発展はあり得ない。住民の理解があってこそ」と考える。昨年10月、地域住民とのつながりを目的に開催された「クリーンアップ大作戦」には100人を超える参加者が集まった。中には小学6年生の女子児童とその父親の姿もあったという。寺川さんは「若い人の参加は嬉しかった。彼女は普段から駅前の鳩の糞を気にしていて、自分から家族を誘った」と感心し、「若者の愛着がまちづくりにとって大切なこと」と期待を込める。
駅周辺は1998年、「都市景観100選」にも選ばれた。これは建設省(現・国土交通省)が1991年から約10年をかけて、日本全国から高いデザイン水準を持つ100の街を選定したもの。落ち着いた色彩で統一され、計画的に整備された街並みが評価された。企業や団体の垣根を超えた協力、そして市民とのつながりが、駅前の美しさを維持している。
(戸森生実)