ワクチンパスポートにおけるマイノリティって? 第2部

2022年04月04日

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第2部 ワクチンを"打たない"選択

第1部では、持病によりワクチン接種が出来ない方にお話を聞いた。そこでは「打つことが出来ない人」の苦悩や思いが伝わってくるとともに、ワクチンに対する新たな問題が見えてきた。

そうした点を踏まえ、第2部では「人権からみたワクチン問題」に対して議論を深めるために神奈川県弁護士会所属の櫻井みぎわ弁護士、熊澤美香弁護士のお二人にお話を聞いてみた。

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熊澤弁護士(中央左)と櫻井弁護士(中央右)

◉ワクチンパスポートに関して受けた相談内容

日本弁護士連合会が行った「新型コロナウイルス予防接種に係る人権・差別問題ホットライン」で寄せられた意見には、『会社で打つことを強要された』『打った人と打っていない人が表にされてオフィスに張り出された』といったワクチン接種を強要されたケースが多かった。櫻井弁護士は、打たない選択も人権として認められている一方で、政府広報による影響でワクチンを打つ風潮が広まり、打たない選択肢への風当たりが強くなっていると言う。

ワクチンを接種することは"努力義務"とされているが、このワクチンは特例承認であり、通常の例えば"インフルエンザのワクチン"のように治験が繰り返されたうえで承認されたワクチンとは違う。治験が少ない状態で世に出回ったため、それを不安に思う人がいることも当然であると、お二人は言っていた。

世の中では打つことが多数であり、"打たない"選択は少数である。その結果会社等のコミュニティの中で差別が発生し、時には会社を辞めなければならなくなる等"自由"を奪われることにつながっているのだ。

◉副反応

ワクチンを打つか否か、考えるうえで避けては通れない点が「副反応」である。先述の通り、コロナワクチンは特例承認であり、治験を同時進行で行っている。そのため、将来どのような影響を及ぼすか、不明な点が多くある。

ワクチンが普及し始めた当初、「若い女の人に耐え難い高熱と倦怠感といった副反応が強くあらわれる」と言った言説が飛び交い、妊婦の方に関しては、胎児にどのような影響を及ぼすかが大きな議論となった。この話題は、私たちも身近に見聞きする内容だったので、取材にも熱がこもる話となった。

「新型コロナウイルスワクチンに関する提言書や正しい知識を身に付けたうえでこれらのリスクを理解し、接種するか否かを自分自身で選択することが重要である」とお二人は述べていた。人権の側面から見ると、「打つ・打たない」という選択に正誤はなく、自由な選択を行う権利を誰しも持っているということだ。

◉陰性証明の負担費用

陰性証明書を依頼する際、費用を負担するのは一体誰か。これは前回の記事にも繋がっているが、果たして政府による特別定額給付金は問題の解決につながったのであろうか。

この疑問に対し、熊澤弁護士は「今の補填は国の負債を助長し、結果的に若者世代に対して負担が増えることに繋がる。今、緊急小口資金のような支援金は税金で賄われているのである。」と述べた。今行う解決方法が果たして根本的な解決であるかどうかは別であると知った。

◉ワクチンが打てない人に対する誹謗中傷

誹謗中傷に対して熊澤弁護士に見解を伺ったところ、以下のような返答をいただいた。

「ワクチン自体はそもそも自衛のために接種するものである中で今回のコロナワクチンに関しては「人のため」という風潮がある。そのため、『打っていない人のせいで感染した』といった誹謗中傷が発生する。現在、ブレイクスルー感染のようにワクチンを接種していても感染することがあり得る中で、『ワクチン接種をしていない人のせいで自分は感染した』と非難することは差別である。」

また、人権の側面から今回のワクチンパスポートには問題点があるとも熊澤弁護士は語っていた。それは、打った人にのみに利益がもたらされ、権利として打つことも打たないことも認められている中で、打った人にだけ恩恵がある仕組みは人権に違反しているということである。

◉ワクチン差別について

神奈川県弁護士会は「新型コロナウイルスのワクチン接種について、接種しない人への差別等を防ぎ、副反応についての充分な情報の公表を求める会長声明」を2021年11月12日に発表した。 https://www.kanaben.or.jp/profile/gaiyou/statement/2021/post-373.html

ワクチンパスポートは、人権的な側面から打った人にのみ経済的利益があったり、また打たない人の行動の自由をはく奪しかねない。また、世間一般でも"打たない"選択をした少数に対して差別の目が向いていることも事実である。こうしたことから、声明では、打つ選択も打たない選択も法的には保障されている中、ワクチンパスポートの運用次第では「ワクチン接種をしない人・できない人に対する不利益な扱いがさらに拡大する懸念もあります」と警鐘を鳴らすとともに「ワクチン接種については、個人の自己決定権が最大限尊重されるよう配慮した広報や対策を行うことにより、ワクチンを接種しない人への差別等を防ぐ必要があります」と訴えている。新型コロナウイルスの感染状況から考えると、今後もワクチン接種が推奨されることは明らかであり、ワクチンパスポートについても第三回のワクチン接種がはじまったこともあり、今後利用が加速していくと私達は考える。一体私たちが行うべきは何であろうか。

ワクチンを打たない選択をする背景としてワクチンの安全性の問題が存在するが、ワクチン接種に関しては、個人個人で「打つことによる利益と、打つことによるリスク」を比較して判断を行う。つまり必要なのは正しい知識とそれを踏まえた自身による判断なのである。そして「誰も他人の判断を非難することはできない」との認識を改めて確認する必要があるだろう。

私たちが行うべきは同調圧力による接種ではなく、自分自身で考え判断を行う事であろうと今回の学びを通して考えた。

若い世代ができること

2回の取材を終え、金指と鈴木がワクチンパスポートに対して持った考えや感情を語り合った。

お三方の話を聞いてどう思いましたか?

鈴木「私はワクチンを打っていますが、打たない人の意見が理解できるようになりました。」

金指「理解ができるようになったということは賛同してはいないということですか?」

鈴木「そうですね。知識不足のために流されるのではなく、リスクを理解したうえで私は今後も打つと思います。」

金指「私もこれからも打つ機会があれば打ち続けると思います」
「今回話を伺って"打つか否か"は個人の判断であり権利であることを知ったうえで、私たちは"打つ"選択をする、という感じですよね」

鈴木「ただ、いずれにせよ打てない人に対して、差別は絶対にしてはいけないと感じました」

金指「でも私たちも今回インタビューを行う前までは、ワクチンを打っていない人に対して、一方的に抵抗感を感じてしまっていた側面はありましたよね」

鈴木「間違いなくありました。自分の行動は顧みず不安でした。」

金指「まず重要なのは木田さんのように体質や病気で"打てない"人と、弁護士の方々に伺ったようなワクチンの危険性から"打たない"選択をした人がいる、という存在を私たちが知っていることだと思いました。全員が全員「打った」ということがあたりまえではないと」

鈴木「文化や家庭環境によりどのような意見や考えを抱くかは人それぞれですが...。」
「固定観念って怖いですね。」

金指「ワクチンを打つことも打たないこともあくまで"個人の権利"で、その中で"打つ"選択をした人が多いのが現状なだけで、それを"当然"とするのはまた違いますよね。」
「権利の側面から考えると、あくまでも全員が平等に"打つかどうか選択できる権利がある"ので、どちらの選択も尊重されるべきだと思いました」
「ただ、ワクチンを打つことが感染の抑止力になることも確かなので矛盾を感じることも確かです」

ワクチンパスポートについて、今の時点でどう考えますか?

鈴木「パスポートほど拘束力の強いものとなると、条件を満たさない人/満たせない人のことが気になっていまいます。」

金指「木田さんのお話の中にもありましたが、生活に影響が出るレベルになってしまうとそれは問題がありますよね」

鈴木「退職しなければいけない人がいることも悲しい事実であり、そのような声の多くが届けられることなく消えて行ってしまっていますよね。」

金指「ワクチンパスポートのように"打つ"選択をした人だけに利益があるものは、たしかに権利の側面からすると"打たない"選択を尊重していないとして違憲になるのは理解できます。ただ、ワクチン接種が進むことで感染のリスクが抑えられることも事実なので促進の一種キャンペーンのようなレベルでの、ワクチンパスポートはありなのでは?と思ってしまいます。」

鈴木「オミクロン株の場合、ワクチンを接種していても感染リスクがあることは事実ですが、効果はあることを考慮すれば促進活動は、私もありだと思います。」

金指「"打っていてあたりまえ"の状態の『強制』に近い促進と、"打つことも打たないことも選ぶ権利がある"と多くの人が知った状態での賛同を集う促進は、少数派の尊重をするという面でも意味合いが変わる気がしますよね」

鈴木「この記事を書くまではその違いを理解しておらず、同じものの様に捉えていました。それは恥ずかしながら知識不足が故でした。」

金指「"打てない""打たない"人の存在、そしてワクチンについての正しい知識を知ったうえで、自分で考えて行動を決定することが差別しないために重要ですね。」
「周囲がやっているから、ではなく正しい知識に基づいた自分の決定をしてもらえたら現状も変わるのではないでしょうか」

鈴木「当初の副作用のリスクなど、私自身忘れてしまっていたので、"なんとなく"に流されるのではなく選択をして欲しいです。この記事がそのきっかけになれば...。」


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