■最終回 しんゆり住民 街づくりの源泉は 市議に取材

2022年05月23日東海大学 笠原研究室

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東海大学文化社会学部広報メディア学科の笠原研究室では昨年秋から5回にわたり、小田急線新百合ヶ丘駅周辺の街づくりを取材してきました。今回は最終回として、同駅が位置する川崎市麻生区選出の市議会議員で、ベテランと若手のお二人にお話を伺い、街づくりにおける住民と政治の関係について考えてみました。 (東海大学 文化社会学部 広報メディア学科 笠原研究室)

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雨笠裕治市議(左)と月本琢也市議(右)(いずれも2022年4月、川崎市役所で塩澤風太撮影)

■1.「しんゆり映画祭」や駅前の清掃活動など、今回の取材を通して新百合ヶ丘駅周辺は街づくりに積極的に参加する住民が多い印象を受けました。その理由はどこにあるとお考えでしょうか?また住民を惹きつける「"しんゆり"の魅力」とはどこにあるのでしょうか?

雨笠:約50年前、何もないところに新百合ヶ丘駅が作られ、新しい街ができました。都心までのアクセスの良さ、その割には緑豊かな環境に惹かれ、東京から比較的所得の高い人たちが移り住んできた。駅開業から約10年後には文化センターを活動拠点に文化協会が設立されるなど、芸術を志向する人が住民に多かったと言えます。その後、市民芸術の拠点「川崎市アートセンター」が誕生し、さらに昭和音大や日本映画学校(のちの日本映画大学)が校舎を移転し「芸術のまち」としての骨格ができた。こうした中で、住民が自分たちの個性を大切にしながらこの街を動かし、愛着を持って街を作ってきた。そんなふうに思います。

月本:いろいろな人が集っているところが"しんゆり"の魅力だと思います。麻生区ができて40年で人口がおよそ2倍になっていますので、肌感覚だと、住民の4割から半数は麻生区外から入ってきた人たち。一度都内に出た後、実家の近くで子育てをしたいと30~40代で戻ってくる。あるいは小田急沿線に大学が多いので、学生時代を"しんゆり"で過ごしてまた戻ってくる。そうした「帰ってきたくなる街」というイメージがあります。そして定年後に「自分たちが街をつくるんだ」という意識を持ち、ボランティアとして地域活動に参加する住民も多いですね。映画祭なんて、自分たちで盛り上げたいと市民が集まって続けているのは全国でもここだけだと思いますよ。私は「市民の3要素」というものがあると思っています。納税者、サービスの受給者、そして3つ目が「構成員」です。つまり市民は街の一部であり、サービスを提供する側に立つこともある。その意味で一番サポートしてくれるのが麻生区の方たちだと感じています。街づくりの主役は市民、という認識が強いと思います。

■2.駅開業と同時に移り住んできた層の高齢化が進んでおり、麻生区は市内全7区で最も高齢化率が高い状況です。若い世代に街づくりにより積極的に参加してもらうために、政治や行政はどのような働きかけができるでしょうか?

雨笠:非常に難しい問題ですね。喫緊の課題だと思います。例えば近年、町内の自治会への加入率は6割を切っています。ある新築マンションでは、70世帯の中で町内会に参加したのは7世帯のみだったそうです。街づくりに関わることに「何か得があるのか」という認識があるのかもしれません。でもその一方で、私が行ったアンケートに対する若者の回答などを見ると、意外と積極的だな、という印象もある。「若者の政治離れ」が話題になりますが、SDGsなど関心がある分野は割と活発だったりします。生きることに、想像以上に真摯なのかもしれません。こうした思いを街づくりに繋げることが政治の役割なのではないでしょうか。住民が政治に意見したり、参加したりしやすい何らかのきっかけや場を与えることで、住民と政治をつなげていくことが求められると考えています。

月本:小さな頃から学校で主権者教育を行うことが必要だと思います。そうすることで、政治への関心を持ってくれる子どもが増えるのではないでしょうか。例えばある児童養護施設の職業体験に、市議として協力したことがありました。話してみると保育士になりたがる子が多かった。保育士以外の職業をよく知らないからです。そういった子に政治家という職業をどう伝えればいいか?そこで、街を散策してより良い景観や住みやすい街づくりのためにすべきことを考え意見を出し合う「まち歩きタウンミーティング」をやってみました。そして陥没した道路や壊れた手すりを見つけた子が、これでは高齢者が困るという意見を出してくれた。そこで私がそれを行政に伝えて対応してもらい、「みなさんの声を届けるのが政治家の仕事」と子ども達に伝えると、とても驚いていました。困っている人のために力になれるんだ、と。そうした実体験として政治の役割を感じてもらうことが大切ではないかと思います。

■3.最後に、街づくりにおける住民、行政、政治の理想的な関係とはどのようなものだとお考えでしょうか。

雨笠:「これを実現すれば幸せにつながるんだ」という"ムーブメント"を地域住民の中に作り、行政を動かすのが政治の仕事だと考えています。行政の粗探しもいいですが、それが住民の意識からかけ離れると独りよがりの政治になってしまう。そうではなく、住民の意向を聞き、説明・説得し、責任を果たすことが重要ではないでしょうか。そのために私はこれまで、徹底的にアンケートを行ってきました。地域住民の声を採り入れ、住民と共に街を作っていく。「こういうことだったら参加したい」と住民の皆さんに興味を持ってもらい、その関心を街づくりへの参加につなげる。そして行政を動かして計画を進め、住民の幸せを実現する。そのような"ムーブメント"を生み出していくのが政治だと、私は35年間の議員生活の中で感じています。またそのためには、行政の透明度を高めることが大切です。例えば地下鉄の延伸ですが、開発にはどうしても利害関係が絡んでしまうため、情報公開が遅れがちです。しかしそうではなく、進捗状況を積極的に報告して透明度を高め、そして説明責任を果たすことで、政治に対する信頼が生まれるのだと思います。

月本:住民と政治との距離はまだまだある、と感じます。そこを縮めるためには、政治に触れられる機会を増やすことが必要だと思います。趣味のグループ、防災士のグループ、PTAのOB......色んなグループがうまく情報を共有しながら課題を発見し、市政に関心を持ってもらう。それぞれのグループの様々な取り組みを色んなところで共有する。例えば小田急多摩線「はるひ野」駅は2004年に開業した比較的新しい駅ですが、この駅周辺の町内会では、web会議システムと対面での会議を組み合わせた「ハイブリッド町内会」を開いて参加率を高めたりしています。こうしたパイオニアの取組は、苦労した点や工夫が必要になったポイントなどの記録も充実している場合が多い。そうした貴重な経験を色んな場所で説明して共有すると、新しい発見があったりします。そういう仕掛けを作る"コーディネーター"が、議員の仕事だと考えています。一つの団体だけでやっていくと、行政の不備を追及するマイナスの方向に進んでしまいがちです。ところが異なる立場の人が話し合いに参加して情報を交換すると、不思議とポジティブな雰囲気になり、行政の課題が見えてくるんですよね。

(佐藤梨穂香、戸森生実、倉元真生、塩澤風太)

○今回お話を伺ったお二人

・雨笠裕治(あまがさ ゆうじ)さん:
1959年、東京都大田区生まれ。1987年に川崎市議会議員に初当選し、現在9期目。

・月本琢也(つきもと たくや)さん: 1978年、大阪府豊中市生まれ。2011年に川崎市議会議員に初当選し、現在3期目。


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