市民と行政の協議会「2030年カーボンハーフ」出席報告!
2022年08月10日田原 美優
7月21日(木)、東京都庁で行われた「市民と行政の協議会」で発言をさせていただきました!この協議会のテーマは「2030年カーボンハーフ~くらしから省エネ・再エネを進める」です。易しく言うと、温暖化対策です。
私の発言中、背中を押す言葉を発してくれた議員がいたり、協議会後に名刺・LINE交換が続いて人気者になったと錯覚したりと、なんだかとっても楽しかったです。この記事では、謎のワード「カーボンハーフ」や東京都の政策、協議会の内容と感想をご紹介します。
・東京都「市民と行政の協議会」
東京都は、1994年より「市民と行政の協議会」を開催しています。都議有志の仲立ちにより開催されるもので、これまでに食の安全、LGBTなど色々なテーマで行われてきました。その第20回目のテーマが、7月21日の「2030年カーボンハーフ~くらしから省エネ・再エネを進める」でした。
・2030年カーボンハーフとは
世界は今、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標「2050年カーボンニュートラル」に向けて動いています。東京都も2050年カーボンニュートラルを掲げており、その達成のためには2030年までの取り組みが重要との認識のもと、「2030年カーボンハーフ」を掲げています。これは、2000年比で2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減するという目標です。東京都は現在、環境基本計画の改定と条例による制度の改正(強化・拡充)を進めています。
・注目の政策「太陽光発電設置義務化」
東京都の政策の中でも今注目を集めているのは「新築建物を対象とした太陽光発電の設置義務化」制度です。都内大手住宅メーカーを対象に、各メーカーに応じた再エネ設置基準を達成させる制度です。都のCO2の7割が建物でのエネルギー使用に起因していること、2050年には建物ストックのおよそ半数が新築建物に置き換わることなどから、この制度が検討されています(※1)。
私はこの制度に賛成しています。とはいえ、経済的メリットはあるのか、ライフサイクル全体での太陽光パネルの環境影響はどうなのか、リサイクルできるのか、などの懸念点もあると思います。そうした疑問に対しては都が『太陽光発電設置解体新書』の中で回答しているので参考にしてみてください(※2)。
※1,2:東京都環境局, 2022, 『太陽光発電設置解体新書』
・協議会の内容
市民と行政の協議会「2030年カーボンハーフ~くらしから省エネ・再エネを進める」は、カーボンハーフに向けた都の取り組みについてのものでした。1時間半以上にわたって市民からの質問に行政が答える、ということが繰り返されました。質問の内容は、既に述べた新設建物への太陽光発電設置義務化にはじまり、断熱のことや、再生可能エネルギー推進の手法、防災対策のこと、貧困や健康に関連する取り組み、未来世代との連携など、多岐にわたりました。
・私からの質問「気候市民会議」
私からは、「未来世代との連携」というところで四点、質問をすることができました。一点目は、気候市民会議を設置するか、というものです。気候市民会議とは、一般的には無作為抽出によって選ばれた市民が気候変動対策を話し合う会議のことで、日本でも札幌市で2020年に開かれました。無作為抽出による気候市民会議は、気候変動への関心がない人への教育効果があるのと、都民の意見の縮図を描き出し行政にいかせるというメリットがあります。
私の質問に対する行政の方の答えは、「シンポジウムなどで市民の声を聞いている」というものでした。気候市民会議の設置そのものについての見解が不明確だったので再度その点を聞くと、横にいた議員が「ツッコんだ!」という声を発しました。会場の雰囲気も私の背中を押してくれて、気分が高揚したことを覚えています。
しかし、相手を攻撃することに快楽や価値を見出してはいけません。このやりとりで明らかになったことを冷静に分析する必要があります。
私は気候市民会議の無作為抽出に価値があると考えていました。既に気候変動に関心がある人は自分たちから行政に声を届けているし、行政も今回の協議会が代表するように私たちの声を聞いてくれています。大事なのは、まだ気候変動に気づいていない、行政任せの市民に気候変動のことを知ってもらうこと、そして広く市民を巻き込んだ行政を実現することです。2030年カーボンハーフという高い目標の達成には多くの市民の参加が不可欠です。
一方、気候市民会議を設置するかという質問に対し「シンポジウムなどで声を聞いている」と答えた行政は、気候市民会議を単純に「市民の声を聞く場」としてのみ捉えていたのだと推測します。こうした認識のずれを発見できたのは良かったです。もっと丁寧な議論が必要だと思いました。
・私からの質問あと3つ
私からは上記の質問に加え、基礎自治体のカーボンニュートラルの支援、気候変動対策に障害者などの要配慮者の視点を取り込むための避難「生活」訓練、気候危機や東京都の意欲的な目標を伝えるテレビCMの3つの提案を行いました。このうち、基礎自治体への支援やテレビCMは既に行っているとのお答えがありました。テレビCMとは林修氏がエアコンの中から顔を出し「この夏、電力不足に備えて、HTT(電力をへらす・つくる・ためる)でしょ!」と言うCMです(※3)。
既に行っているとはいえ、私が思い描くものと一致しているのか、時間があればもっと質問をしてみたかったです。少なくともHTTのCMは気候変動について言及するものではないので、私の提案を行政に正確に伝えることができなかったようです。避難生活訓練の提案についてはその場で答えられなかったためか、回答がありませんでした。検討してくれていたら嬉しいです。
※3:東京都環境局, 2022, 「Tokyo Cool Home & Biz動画コンテンツ」, (2022年8月7日取得, https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/tokyo_coolhome_coolbiz/htt_movie.html)
・協議会の感想:行政や政治に参加するコストが高い!
協議会に参加したことで、また少し、行政や政治の歯車を見ることができました。投票しか政治参加の場がないと思っていた過去の自分にとって、協議会は驚くべき場所でした。ある新制度が始まるとき、その裏には今回の協議会のように市民と行政と政治家が協力をして地道に議論を重ねる場があるのです。
その他にも東京都は色々な会議を開いていて、市民はそれを傍聴することができるし、会議資料も公開されています。行政や政治の歯車への参加の仕方はきっともっとたくさんあります。問題は、それが見えづらく多くの市民にとっては距離があることです。今の私のように、多くのエネルギーを消費しながら、わけも分からず歯車の中心に身を投げ入れなければ行政や政治の仕組みが見えてこない今の状況は問題だと思います。
私は、人々が困難を感じたときに、それを受け入れたり自分たちを困難に適合させたりするのではなく、社会の方を変えようとみんなが気軽に思えるようにしたいです。自分には関係のない他人の困難だとしても、多大なコストを払わずに容易に手を差し伸べ社会をアップデートできるようにもしたいです。それが、私がこのような記事を書き、政治への参加の仕方を伝え、他人に対してまで行政や政治にもっと関わるよう求める理由です。
・協議会の感想:質問の仕方が不合格!
協議会に出席してみて、反省点もあります。協議会での自分の質問を自己判定すると不合格です。時間の制約はありましたが、気候市民会議についてはもう少し丁寧なやりとりをして行政の率直な考えが聞きたかったです。色々な点で双方の認識が異なっていました。
CMなどについても「既にやっている」で突っぱねられてしまいましたが、私が本当に意図していることが伝わっているのか確認をしたかったです。双方の認識のすり合わせができたところで、私の提案が良いなら良いと言ってほしいし、実行する価値が無いならそう言ってほしいです。
意味のある質疑応答にするために、短い時間で正確に自分の意図を伝える練習や思考力のトレーニング、そして表情や口調の改善も必要だと思いました。
以上が協議会の感想です。これを読んだ方が、東京都の気候変動対策や、行政と政治への働きかけに興味を持ってくれたら嬉しいです。
・ついでに:政治参加の方法の一つ「パブコメ」
以下「おまけ」です!手軽にできる政治参加の一つ、「パブコメ」についてご紹介します。既に述べた太陽光発電の設置義務化は、現在都が進めている条例改正の一部です。条例改正全体についての「パブリックコメント(パブコメ)」の募集が5月から6月に行われていました。
パブリックコメントとは、行政機関が計画や条例について「市民の皆さんはどう思う~?」と募集する市民からの意見のことです。私も今回は、「太陽光設置義務化に賛成です」という意見を送りました。
「またまた~、私一人が意見を送ったところで影響力なんか無いでしょう?行政機関もちゃんと見てくれるの?」と思ったそこのあなた!今回の条例改正についてのパブコメ、すごかったんです!パブコメが開始された当初、太陽光設置義務化について誤解が多く、ネット上では反対意見が多く見られ、気候変動の活動家たちは焦っていました。活動家たちはパブコメ送付の呼びかけや「パブコメを書く会」の開催を行いました。
パブコメの結果は上のグラフです。合計で56%が賛成、41%が反対と、賛成が上回っています。確かに一人の力は小さいけれど、仲間と協力することで大きな力を生み出すことができるのです。
また、パブコメの結果は実際に都の背中を押すことになっています。再びパブコメの結果のグラフを見ると、20代以下の賛成の割合が大きいことがわかります。8月5日には小池都知事が定例会見で「これからの世代の人たちが賛同してくれるというのは極めて大きなことだという風に受け止めております。」(※4)と述べました。さらに、環境局は集まった意見を丁寧に集計し、意見の概要とそれに対する都の考えを107頁にわたって公開しています(※5)。こんな大事な意見表明の場を使わないなんてもったいないですね!
では、そもそもどうやってパブコメ募集の情報を取得するのかというと、「東京都パブコメ(意見公募)」などと2週間に1回ぐらい検索してみるとよいでしょう。面倒な場合は、自分が興味のあるテーマ(私の場合は環境)のSNSアカウントをたくさんフォローしていると、どこからともなく情報が流れてきます!
※4:東京都, 2022, 「記者会見(令和4年8月5日)」, (2022年8月6日取得, https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2022/08/05.html)
※5:東京都環境局, 2022、『ご意見の概要と都の考え方(詳細)』