児童養護施設をご存じですか?

2022年12月05日犬飼 瑞穂

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 2021年8月、3歳の男の子が母親の交際相手に熱湯をかけられ死亡した痛ましい事件が記憶に残っている方も多いと思います。亡くなった男の子は、日常的な虐待をうけており、3歳の尊い命がなくなってしまいました。私たちが知らないところで心に深い傷を抱えている子ども達が日本には多く存在しているのが現状で、国内に関わらず世界的な問題でもあります。

 児童虐待には「心理的虐待」「ネグレクト(養育放棄)」「身体的虐待」「性的虐待」の4つの分類があります。親から殴られたり家に閉じ込められたり、あるいは性的な行為をされる、言葉による心理的ストレスを与えられるなど、辛い目に合っている子ども達は日本に存在しているのです。

 そのような心に大きな傷を抱えている子どもたちに、安心して過ごせる場所を提供してくれる場所があります。それは児童養護施設です。

 私の身近にも児童養護施設で育った友人がおり、どのような幼少期を送ったか話を聞いたことがあります。彼の母親は病気を抱え、そのことで父親も精神的な病気を患ってしまい、それがきっかけで両親は離婚。その結果彼は経済的な理由により施設で過ごすことになったと言っていました。親と兄弟が離れ離れに暮らし、「なんで俺だけこんな思いをしなければいけないの、普通の家庭に生まれたかった」と、幼少期に抱えた心の傷があったことを話してくれました。

 今回は、保護者がいなかったり、保護者と離れ離れに暮らさざるを得なかったりする子どもたちの抱えている困難やその現実、子どもたちを施設側はどのようにして守っているのかを皆さんに知ってもらいたいと考え、児童養護施設の1つである「旭児童ホーム」を訪ね、所長の田中さんにお話を聞いてきました。

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 旭児童ホームは神奈川県横浜市にある児童養護施設です。児童養護施設とは、「保護者のいない児童(中略) 虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させてこれを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設」(児童福祉法41条)です。児童養護施設の多くは民間ですが、費用は基本的に公費によって運営され子ども達の生活を支えています。

 旭児童ホームは自然に囲まれ周辺には学校や幼稚園などあり、「子ども達にとって住みやすいのでは」というのが第一印象でした。家庭的な養護を実践するために地域に溶け込み、小規模で家庭的な環境をつくることを大切にしており,日常生活を子供達に提供し、「当たり前の生活」を理念に子ども達と過ごしています。

はじめにお聞きしたのは、児童養護施設に来る子ども達についてです。

 全国にある児童養護施設には、概ね3歳〜18歳の子ども達で、保護者の経済的な理由や、本人が身体的・精神的虐待を受けているなどの理由があり、行政が保護者から離れて生活した方がいいと判断をした子ども達が入所してきます。詳しくは書くことができませんが、保護者の息詰まった生活環境の下で虐待されている子どもや、学費や給食費を払えず充分な生活ができない子なども多いと言います。旭児童ホームで生活する子どもは横浜市内の子どもが中心で男女比は半々くらいとのことです。

子供達はどのように過ごしているのでしょう?

 では、旭児童施設では子ども達はどのような生活を送っているのでしょう? 田中所長は以下のようにお話ししてくれました。

 点在しているグループホームというところで、4人ずつくらいで子供が生活しています。全員が集まって暮らしてしまうと平等にすることは可能ですが、皆それぞれ個性が違う為、支援する内容がそれぞれ違うので、より家庭的な場所を作り、地域に溶け込んで生活することが大切だという考えの為分散させて生活しています。それぞれのホームに職員のスタッフがおり家事や食事を提供しています。子ども達は普通の子どもと変わらない日常を過ごしており、グループホームから学校に通い休日は友人と過ごしたり趣味に費やしたりなど、子ども達それぞれの過ごし方をしています。

 

分散して生活しているのを初めて知りました。

 

 実はこのやり方をする施設は全国的に珍しく、グループホームのやり方を国は推奨しています。まだそれぞれのホームにご飯を作る職員、寝泊まりする職員など、職員の労働環境が整っていないという現象がある為、全国的に広がっていないのです。しかし当施設は、家庭を失った子どもだからこそ、より家庭的な環境を提供したいという気持ちが強くあるため、グループホームを行っています。

卒業した子ども達の進路はどうなっていますか?

 当施設では就職する割合が高く5人いたら2人が進学し3人が就職する割合です。最近、奨学金が充実しており、2020年度から大学に行きやすくなっていますね。理由としては日本学生支援機構の児童養護施設の子ども達に特別枠(*)ができたため、学費と生活費が国から援助が出るため、子ども達の進路に合わせ進学も推奨したりするなど支援をしています。

*日本学生支援機構の奨学金制度 https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/kyufu/index.html

子ども達との生活の中で嬉しかったことについても聞いてみました。

 休日、施設の子ども達と一緒に出かけた時に子ども同士で喧嘩をしてしまいました。喧嘩をきっかけに家に帰れない辛さを嘆いてしまった子に対し、彼らを見守っていた一人の年上の子どもが声をかけ、仲良くするようにやさしく諭してくれる姿が見られました。兄弟でもないが、子どもたちがお互いに助け合っている姿を見ると、言葉の優しさだけではなく互いを分かち合えていると嬉しさを感じますね。

逆に辛かったことは?

 時々ですが、施設から逃げてしまう子もいます。施設側は本当の親ではないという複雑な関係のため、ただ待つことしかできません。ひたすら幸せにしていることを願っています。逃げても追いかけられない現状が、施設の限界を感じてしまいますね。親のように接しようとしてもそこには限界があって、意見を言うことに限界があります。

最後に、施設運営者として一般市民に伝えたいことについて聞いてみました

 世の中で評価される仕事であってほしいと思います。職員の人がこの仕事をやり続けられる正当な賃金であるべきではないかと思います。世間は虐待の予防や責任を問いただしていることが多いが、現実的に少数いる子どもたちを大事に見守ってくれる世の中であって欲しいと考えています。施設を支えているスタッフ、そして子供達に関心を寄せてくれる人が少しでも増えてほしいですね。

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感想

 今回旭児童ホーム様に取材をし、児童養護施設は様々な理由等で保護者と暮らせない子ども達にとって必要不可欠な「家」であるということを知りました。施設は温かい家庭と安心できる環境を子ども達に提供しています。日本では未だに、虐待のニュースが絶えません。虐待の防止は私たちの力でなくすことは難しいのが現状です。だからこそ子どもたちが寄り添える場所を提供する児童相談所や、児童養護施設が存在します。所長さんの田中様が述べていたように、このような子どもたちを守っている機関に関心を寄せるとともに、施設は正当に評価されるべきであると思います。そして、子どもの虐待を私たちが正しく知ることこそが、小さな命を救う一歩になるのではないでしょうか。公的機関と個人で協力していき、辛い思いをしている子どもたちを助けていくことが私たちの今の課題です。子どもの辛い境遇にあっている子どもたちを支えている児童養護施設は、子どもの自立をサポートし当たり前の生活を提供してくれる、大切な場所であると取材を通じ改めて強く感じました。


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