ホームレス支援の現場を知る

2023年02月10日犬飼 瑞穂

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

家を失い孤独になったホームレスに手を差し伸べようと動き出した学生がいます。彼の名前は濱野怜さん(22)。「CoE(コエ)」という団体をつくり、キラキラと輝く夜の街を大きなリヤカーを引き、仲間達とともに川崎の街を歩いています。

ホームレスの方々に一人一人に声に耳を傾け、特製のおにぎりや味噌汁、手作りのおかずを届ける活動を毎週木曜日の夜に行っています。

今回、彼らの夜回りに同行させていただき、ホームレスの方々の実態や同行夜回りで私自身が感じたことを記事にしていきたいと思います。

活動を始めたきっかけ

濱野さんがこの活動を始めたきっかけは2021年の秋。貧困問題に関心があり、将来政治家になって貧困問題を解決したいという思いが濱野さんにはありました。そんな折、選挙活動を手伝う濱野さんの目の前でホームレスの女性が突然倒れるという出来事が起こりました。しかし、その時の濱野さんは「見て見ぬ振りをしてしまい、自分は何もできなかった」といいます。「目の前の人ひとり助けられないのか」と、自身を恥じ、そこから彼の活動は始まりました。

minukai230210_1.jpg
輝かしい夜の街を、大きなリヤカーを引いて川崎の街を歩くCoEの仲間たち

初めての同行夜回り

私が初めて同行夜回りをさせていただいた12月下旬、川崎駅周辺はクリスマスムードいっぱい。煌びやかに輝くクリスマスツリーと共に、多くの人で賑わっていました。

そんな中、駅のバスターミナルに段ボールやテントを敷いて寝そべり、見るからに痩せこけて弱々しく、心には計り知れぬ何かを抱えているようなホームレスの方の姿がありました。気温は11度。私がダウンコートを着て寒さをしのぐ中、彼らは薄手のスウェットやジャケット姿。多くの人が行き交い賑わっている川崎駅ですが、人々はそんな彼らを見て見ぬ振りをし、素通りしていくばかりです。

リヤカーを引いて、いつもの公園に夜回りをすると笑顔のホームレスの方々が濱野さんたちを待っていました。濱野さんたちがホームレスの方々一人一人に声をかけ体調や最近の様子を聞きながら温かい食事を提供すると、「楽しみにしていた」と嬉しそうに食事を手に取ります。自分たちが作った食事を「ありがとう」と言ってくれることは、CoEのメンバーにとってもどんなに嬉しいことでしょう。

minukai230210_2.jpg

この日、いつもバスのロータリーにいた一人のホームレスの姿が見えません。彼は加古さんと呼ばれており、濱野さんも何度か声をかけお互い顔見知りの関係だったそうです。周りのホームレスの方に話を聞くと「低体温症で亡くなった」とのこと。亡くなる直前、彼の体温は28度まで下がっていたといいます。衣食住があれば防げた死です。

minukai230210_3.jpg

濱野さんたちは、寒さが原因で病気や命を落としてしまう方がいるため、百円ショップで購入した保温用のアルミポンチョを配っていました。この一枚でも高い保温力があるため、薄手のジャケットに段ボールで過ごすホームレスの方々はみな喜んでいました。

私は、ひとりの70代の男性に「なぜ路上暮らしを余儀なくされたのか」をたずねてみました。その問いには直接答えてくれませんでしたが、「俺は生涯孤独なんだ。家族も誰もいない。誰も助けてくれないし、俺が死んでも誰も気にもしない。でもここで暮らすと生きる意味が見つかる。俺の話を聞いてくれる人がいるし、一緒に食事をしてくれ悩みも共有できるんだ。生きたいと思える」と話してくれました。

優しくて温かい食事

minukai230210_4.jpg

この日CoEのメンバーが配った食事のメニューは、じゃがいも、玉ねぎ、油揚げ、生姜の入った栄養満点のお味噌汁。イカフライ。たぬきおにぎり(めんつゆ、天かすを混ぜたおにぎり)。みかんゼリー。みかん。どれも優しい人たちの心のこもったものでした。おにぎりと味噌汁は温かく寒さの中ではホッとし、皆温かい表情を浮かべて食事をしていました。この日は冬至のため、味噌汁にはゆずが入っており、ホームレスの方々は季節を感じることができ喜んでいました。

毎週食事を提供する宮尾さん

CoEの活動に共鳴し、毎週温かい食事を提供している女性が宮尾さんです。宮尾さんは川崎生まれ川崎育ちの川崎っこ。幼い頃からホームレスが地元の駅にいることが日常だったそうで、CoEの活動を見て「若いのに勇気があり行動力があって感心が湧いた」と言っていました。実際に活動に参加してみて「自分が作った食事を待ち望んで喜んでくれる姿を見ると、やりがいを感じ嬉しい気持ちになります」と答えてくれました。

「CoE」の今後の目標

濱野さんにCoEの今後の目標について聞いてみると次のような答えが返ってきました。

「自分が学生の間にホームレスをゼロにすること。ホームレスの方々には精神的な問題やさまざまな障害を抱える人も多くいます。そんな方々に生きがいや希望を与えたいと考えています。『この街でもう一度やり直したい、もう一度頑張りたい』と思ってくれる街作りをしたい。夜回りを通して築いた関係を大切にし、ホームレスの方々に心の拠り所を作り、根本的にホームレスを助けることが目標です。そして温かくて、かっこよくて、皆が笑顔になれるような活動を通して、自分もそこに加わりたいと思ってくれる活動をしていきたいと考えています」

濱野さんから読者に向けてメッセージ

読者へのメッセージも聞いてみました。

「まずはホームレスへの見方を変えて味方になってほしいです。そして、こんな事を僕が言うのはおこがましいですが、声を掛けて話を聞くだけでもいいので、誰か困っている人がいたら支えて欲しいです。そうした行動の積み重ねが僕らの創りたい社会の土台となるだろうし、そうやって誰かに頼って応えてもらえていたらホームレスの方々も路上には居なかったかもしれません。身近な所から等身大で良いので人のために行動をする仲間として一緒に頑張ってもらいたいです」

最後に

なぜ日本には生活保護という選択肢があるのにも関わらず路上で生活をする手段を選ぶのか。そこには、精神的な問題や障害、孤独など、自助努力だけでは解決できない苦しみがあるのではないではないかと感じました。今回ホームレスの方に取材させていただきましたが、なぜ路上生活をしているのか伺うと「孤独と戦っている」と答える人が多かったです。生きる希望を持つために、仕方なく路上で生活している――。そうした孤独とたたかう人々に話しかけ、温かいご飯を提供しているCoEの濱野さんや仲間たち。一人一人に向き合い、生きる希望を与えていた姿はとてもカッコよく素晴らしいものでした。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加