フィリピンの貧困問題の現実

2023年04月11日犬飼 瑞穂

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皆さんはフィリピンのセブ島と聞いてどのようなイメージを持ちますか? セブ島は世界中から観光客が集まり、日本でも人気のリゾート地として知られています。そんなイメージを持つこの島ですが、実は発展途上国を感じる街並みが未だに存在し、リゾート地のイメージとかけ離れた貧困問題が存在しているのも現実です。今回は実際にセブ島に出向き、現地の貧困問題の解決に取り組むNPO法人「DAREDEMO HERO(ダレデモ ヒーロー)」代表の内山順子さんを取材するとともに、ゴミ山で生活する人々がいるイナヤワン地区を訪れてきましたので、そのときの様子やそこで感じたことをご報告したいと思います。

フィリピンでは、貧困の家庭に生まれてしまったら、いくら頑張っても貧困から抜け出すことは、不可能に近いのが現実といいます。汗水たらしても1ヶ月1万円程度の所得にしかならず、親たちは子どもを学校に通わせるために制服や学費を出すよりは、生きるためにご飯を得ることを選択し、それがために教育を受けられない子どもが多く存在します。フィリピンは社会的な援助が十分ではなく、あるにしても情報が十分に行き届かないため援助も受けられないのです。また、フィリピンは英語が話せなければまともな仕事につけません。21世紀の今でも、上半身裸の姿で、路上で生活したり、小さな子どもが観光客に物資を求めたりしているのが現実なのです。格差が大きく広がっており、環境が原因で夢を捨ててしまう子ども達が多く存在しています。

DAREDEMO HEROとは

そんな中、フィピン・セブ島で、貧困下にありながら夢を持ち必死に生き続ける子ども達を支援している団体があります。それが日本人女性・内山順子さんが理事長を務めるNPO法人「DAREDEMO HERO(ダレデモ ヒーロー)」です。DAREDEMO HEROは、やる気と志と能力をもった子ども達に希望を与え、彼らの生きる権利や教育を受ける権利のサポートを通じ、彼らの未来を支援する活動をしています。フィリピンでは貧困層の声は無力なのが現実です。内山さんは「夢を持った貧困層の子ども達がしっかりとした教育を身に付け、その子ども達が将来社会的な地位を持つことによって貧困層の発言権が強くなるのでは」と考えたそうです。貧困の苦しみを知っている人間だからこそフィリピンの貧困問題を解決できるヒーローになれる――。そう確信し、この活動は始まりました。

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理事長の内山順子さん
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様々な表彰

DAREDEMO HEROの活動内容

では、DAREDEMO HEROではどのような具体的な活動を行っているのでしょう。DAREDEMO HEROはフィリピンの貧困層に様々な支援をしていますが、大きく分けると『教育支援』『地域支援』『異文化交流』の3つのプロジェクトが柱になります。

『教育支援』では、教育資格を持ったスタッフによる小学校から大学卒業までの継続的な学習支援を行っています。夢を持っているのにも関わらず貧困が原因で学校に通えない子どもに対しては選抜の上、大学卒業までの学習支援及び学費を全額支給し、未来のリーダーを育成しています。

『地域支援』としては、自立支援のサポートの一環として、お金の管理ができていない人の為の「金銭管理のセミナー」や、お金がなくてナプキンを買えない女性に布ナプキンの正しい使い方を教育する「感染症予防教育」、子どもを多く産んでしまうことで貧困の環境下に置かれる女性を防ぐための「正しい避妊教育」なども行っています。また、子ども達の健康な体を作るために栄養バランスの取れた食事の提供や、アートや音楽、社会貢献など様々な体験授業も提供しています。さらに、炭水化物や糖分をとりすぎる文化があるため、野菜の摂取の大切さを伝える「栄養管理教育」や地元の歯医者さんと協力して現地の子ども達の口腔管理なども実施しています。

『異文化交流』では、日本とフィリピンの両国が交流し、お互いの良い文化や価値観、常識の違いを知り、高めあう活動をしています。リアルな交流が難しいコロナ下にあっては、SDGsをテーマにしたオンラインプログラムの提供を通じ「なぜ、今私たちがSDGsに取り組む必要があるか」を両国の若者が理解する機会を設けるなどしているといいます。

この活動を始めたきっかけ

内山さんは、もともと日本で公務員として働き、学生時代からボランティア活動や寄付をしていました。活動をしながらもどこか自分の中で納得することができませんでした。2013年の11月にフィリピンのレイテ島で大きな台風が発生し、高潮の影響で約6000人の方々が亡くなってしまいました。内山さんはこのニュースを耳にし、フィリピンで支援活動をしに駆けつけました。被害現場はひどい状態で、被害にあったフィリピン人は家族も友人も亡くなったと言っていたのにも関わらず、底抜けに明るい笑顔で接してくれたといいます。なぜこの状況でも笑顔でいられるのかと理由を問うと、「自分が悲しい時、自分が泣いていたら周りも悲しくなるでしょ。自分が笑ったら周りも笑顔にできるから。」内山さんはこの言葉をきっかけに、自分から笑顔を発信していかないと、周りも笑顔にできないと考え、この出会いをきっかけにフィリピンと日本の架け橋になり笑顔を届けるために活動を始めました。

イナヤワン地区のゴミ山を訪問

フィリピンでは、法律に基づきダイオキシンが出るゴミを焼却できません。ダイオキシンを削減する焼却炉を設置するのは多額の資金が必要ですが、その資金が足りないため、結果として各地でゴミが積み上げられているのです。そして、そのゴミ山周辺にはゴミを拾い生計を立てて暮らしている人が存在します。

実際に人々がゴミ山で暮らすイナヤワン地区に足を運んでみました。タクシードライバーにこの場所に行きたいと伝えると、「そこに行こうとしているなんて、あなたは頭おかしい、私はここには行きたくない。道は荒れているし、治安も悪いため足を運びたくない」と伝えられ、初めは、断られました。

現地に行くまでの道のりは、車の中は大きく揺れ、道が全く整備されておらず、セブの中心街の華やかな街とはガラリと雰囲気が変わり、かなり驚きました。現場に着くとゴミが積まれた山がいくつもありました。ひどい悪臭が漂い、大量ごみが散乱し、荒れた道。そんな中で、当たり前のように日常を過ごす人々。ゴミ山と並列して家も立ち並んでいました。ゴミを集めている20代の一人の女の子に、「Hello」と話しかけると困惑した様子。でも彼女は私の問いかけを理解しようと一生懸命に頑張ってくれました。その周りにいた小学生くらいの子どもたちは、仲間と笑顔でじゃれあい、助け合いながらゴミを拾い集めていました。生きるために、彼らなりの幸せを探している。そのような様子を見ることができました。

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大量に積まれたゴミ。道の状態は悪く十分に整備されていなかった。
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笑顔で過ごしている子ども達。
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ゴミから金になるものを見つけ、運んでいる様子。
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仲間と助け合いながら、電線やケーブルのゴム部分を燃やし、中の銅線を取り出している子ども達。

内山さんが読者に伝えたいこと

内山さんに日本の若者に向けてのメッセージを聞いてみました。

「一人一人が、隣人や隣の国の人々に少しでも目を向け、(その人の生活や姿を)想像して小さなアクションを起こすことで世界が変わるのではないでしょうか。日本という島国で生活をしているとあまり外に目を向く機会は少ないと思いますが、わずかな支援でも人々が幸せになり、その笑顔が支援した人の笑顔を生む、"幸せのサイクル"を作ることができます。いくら努力をしても、貧困が理由で夢を叶えられない子ども達の夢の実現のために、日本からのドリームサポータを募集しています。フィリピンの貧困問題を解決してくれるリーダーを作り出すお手伝いを是非していただきたいです」

https://daredemohero.com/donation/

取材を終えて

今回、フィリピンを訪れて「当たり前」や「普通」とはなんだろうかと改めて考えさせられました。朝起きて歯磨きをして朝ごはんを食べ、学校に行ける環境。病気にかかったら病院に行ける。日本に住んでいると、この考えが当たり前と感じるのではないでしょうか。しかし、フィリピンのゴミ山に住む子ども達の当たり前は日本とは異なっていました。ゴミから食べ物を探し、お金になるものを探す。しかし彼らの生活はそれが当たり前であって、その状況で健康に、生きていける能力を提供することが彼らの幸せに繋がるのではないでしょうか。

世界中には貧困問題は課題が多く存在します。それを根本的に解決することが一番の近道であり、それを追求し、異国の地で支援をしているDAREDEMO HEROに心打たれました。同世代の私達ができることは、貧困の現実を知ること。そして、その現実をどのように感じとり、何か行動に移すことで世界の誰かに笑顔を届けられると思います。


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