元徴用工判決 互いの声を聞こう

2018年11月06日東海大学文学部広報メディア学科3年 猪股修平

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〈「国際社会への挑戦」 不信感あらわ〉

 10月30日、日韓関係は大きく揺らぎ始めた。第2次世界大戦中、日本本土の工場に動員された韓国人元徴用工が新日鉄住金に損害賠償を訴えた裁判で、韓国大法院は元徴用工に1人当たり1億ウォン(約1000万円)の賠償金を支払う判決を下した。韓国大法院は韓国における最高裁判所である。日本政府としては、1965年の日韓国交正常化の際に結ばれた日韓請求権協定で補償問題は「完全かつ最終的に解決済み」としていた。しかし今回の「最高裁判決」によって協定は覆され、元徴用工に対する補償問題が懸念事項になりそうだ。

 筆者は今、ソウルに留学している。判決翌日に朝刊各紙を購入すると、各紙は1面で大法院判決について取り上げていた。

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▲元徴用工の賠償判決を報じる韓国の朝刊各紙(10月31日筆者撮影)

「光復73年ぶりに...『日本企業、徴用被害賠償せよ』」(朝鮮日報)
「77年徴用の恨み、21年の訴訟の末洗う」(東亜日報)
「大法院『強制徴用賠償せよ』韓日関係嵐」(中央日報)
「『日本企業、徴用被害賠償しなければ』大法院確定...韓日関係激浪」(毎日経済新聞)
「『裁判取引』で遅れた正義...徴用被害者、空で笑うか」(ハンギョレ新聞)
「光復73年ぶりに...強制徴用の痛恨洗う」(韓国日報)
「強制徴用75年の恨み解かれた」(ソウル新聞)

 今回の判決は、あくまで新日鉄住金に対する訴訟問題である。同様の訴訟は他にも十数件が係争中であり、対象企業は約80社に及ぶ。今回の判決によって、他の訴訟でも賠償命令が下される可能性がある。安倍晋三首相は判決が下されてから2、3時間ほどで「大法院判決は国際法に照らしてありえない判断」と記者団に言い放った。この発言は異例の早さだった。国家間の取り決めを覆す韓国側を強くけん制する思惑があったことがうかがえる。また河野太郎外相は4日、群馬県高崎市で開かれた講演で「国際社会への挑戦」と厳しい表現で今回の判決を批判した。

 判決から1週間近く立っても日韓関係はくすぶりを見せている。
 5日に韓国国会を訪問した塩崎恭久衆院議員(自民党所属)は「判決は日韓請求権協定に反し、両国の法的基盤を根本的に覆すもので受け入れられない」と韓国側の議員に迫った。これに対して韓国最大野党「自由韓国党」のキム・ビョンジュン非常対策委員長は「我々は常に歴史問題で被害者だった」としたうえで「反論があると思うが日本が我々に被害を与えた点を勘案し、そのうえで両国関係の発展をつくることを望んでいる」と日本側の批判に切り返した。両国間の不信感は、今後しばらく引きずられていきそうだ。

〈批判が未来をつくるか?〉

 筆者の周りでも、判決の反応は様々だ。ソウル市内で働く30代の友人は「日本が強制徴用をした以上、今回の判決はやむを得ないと思う」とこぼした。また、ソウル市内の大学に通う友人は「請求権協定が結ばれた当時の朴正煕政権は軍事政権だった。民意が反映されないまま、不本意に協定が結ばれてしまった」と、協定締結当時から既に齟齬があったことを指摘した。一方、日本の友人は「判決が腹立たしい。日韓の良好的な関係を維持するのは無理ではないか」といら立ちをあらわにした。

 国際的な決まりを覆す韓国への不信感。歴史と向き合わない日本への不信感。

 両国間でぶつかる意見はどちらも理解できる。戦後73年以上が経っても、いまだに過去の清算ができていない状況に多くの人がもどかしさ、悔しさ、憤り、あるいは怨恨を抱いている。Twitterを開けば韓国への度を越した偏見、差別、ヘイトスピーチが目に入る。今回の判決は、ただいたずらに人々の憎悪を巻き起こすためのものだったのだろうか。

 日韓関係の悪化が懸念される今日だからこそ、声高に訴えたいことがある。政治の動きと市民感情とは必ずしも同一ではないということだ。韓国の司法が日本の賠償責任を問いただしたからと言って、韓国国民が反日感情を抱いているわけではない。確かに元徴用工に対する同情の念は多かれ少なかれ抱いている。それでも、日本との関係を悪化させたいわけではないのだ。現に、新聞上には日韓関係の悪化を危惧する論調も見受けられる。韓国の友人に話を聞けば「日本政府のやり口や態度は気に入らないけれど、日本人が嫌いというわけではない。それに日本の文化や料理は大好きだ」と笑顔で答えてくれる。韓国で数え切れないほどの人と出会ったが、例外なく、政治とそれ以外を分けて考えていた。それを「二枚舌だ」と批判することは簡単である。だが、その批判が果たして幸せな未来をつくるだろうか?

〈日韓の架け橋 若者へ望み〉

 悲しいことに、日韓両国間で相手国に対する印象は決して良くない。言論NPOの第6回日韓共同世論調査(2018年6月)によると、日本世論の韓国への印象は「よくない印象」が46.3%だった。反対に韓国世論の日本への「よくない印象」は50.6%。前年調査よりも微減したものの、未だに半数近くが良い印象を持っていない現実がある。
 それでも希望はある。2017年、日本を訪問した韓国人観光客数は714万人。この数は今年に入っても衰えていないという。また、日本から韓国を訪れた観光客数は231万人いる。若者を中心に、互いの文化を楽しむ姿勢が顕著だ。次世代を支える若者が今後の両国の懸け橋になるかもしれない。

 恨み、忌み嫌い、互いをけん制し合うままでは何ももたらさない。過去を乗り越えるためには理解が必要だ。互いの声を聞けば手を取り合える術を探ることができる。生産性のない批判は、ここでやめにしないか。

参考文献
・言論NPO「第6回日韓共同世論調査 日韓世論比較結果」
http://www.genron-npo.net/world/archives/6941.html


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