日本版DBS施行決定② こどもと関わる男性職員の課題
2026年02月10日 伊藤千夏
今回は、前回からの続きで日本版DBS導入について取り扱います。
日本版DBSは、こどもに関わる職業に性犯罪の犯罪歴がある人がつかないようにするための法律です。実際にこの法律の影響を大きく受けるのは、こどもに関わる職業に従事されている方々です。そこで、今回の記事では、こどもに関わる職業につく男性の方々に話を聞くことにしました。
取材に協力いただいたのは、「くべーる会」の皆様です。「くべーる会」は、東京都多摩市にある「三丁目の家」というこどもや大人の枠を超えた多世代の居場所を運営する組織です。 「くべーる会」のメンバーには、保育士や放課後等デイサービス、児童館等のこどもに関わる仕事に従事している人が多くいます。今回は保育園で働く柴田さん、松尾さん、介護士の大橋さん、Kさんと放課後等デイサービスと児童館でパートとして働くDさんに話を聞きました。※本人の希望で一部メンバーの名前は伏せています。
三丁目の家URL:https://kuberukai.wixsite.com/3cyoume

ー日本版DBSを知らない現状
今回の取材で、こどもと最も近い職場で働く皆さんでも、日本版DBSが施行されることを知らないという状況を知りました。松尾さん、柴田さん、大橋さんは海外で施行されていることは知っていても、日本で施行されるとは知らなかったそうです。
そしてDさんは、「法律に直接関わるこども関連の各組織への説明や入社前の説明を早い段階でするべきなんだと思う。自分もほかのメンバーもこのことを知らないという状況が危機的状況だと思う。」とこの状況を課題視しています。
ー男性の働きにくさについて
こどもと関わる現場には、男性の働きにくさが日常的にあるようです。具体的な話を聞いてみました。
Kさん「保育園にいると、男性が着替えの対応をしなければいけないときがあって、見ないで~と言うこどももいる。(その言葉に深い意味はなくても、)そのこどもが親に、「(男性職員から)嫌なことをされた、見られた」と言ってしまったら、ただ仕事をしていただけでも、その言葉だけが通って仕事を失うのではないかと怖い気持ちはある。」
Dさん「リスクしかない仕事。今は膝に乗せたり、抱きかかえたりも禁止。」
柴田さん「子どもを膝に乗らせないようにするって不可能だと思う。気を付けることはできるけど、こどもとのふれあいを排除することになる。実際の現場だと、男の子や女の子で対応の差を決めるのも難しい話。女性保育士ならいいっていう話も不思議な話。もし男性保育士が嫌なら保護者がこどもに教育するしかない。一方で僕も親目線だとやっぱり複雑な気持ちはある。親目線と保育士目線は違うなって思う。」
リスクがある仕事だけれど、こどもと関わることは未来の世代を育てることなので、そんなところに皆さんはやりがいを見出して、働いています。真面目に勤務をしていればいるほど、日々リスクを意識せざるを得ない状況なのだと知りました。そして、親目線と保育士の目線、どちらともの葛藤がわかるからこそ、保育園の環境は働きにくさが生じてしまっているのだと感じました。
ー日本版DBS導入による可能性
松尾さん、柴田さん、大橋さんは、スクリーニングされて、性犯罪をする保育士ではないという証明になることに肯定的な印象も抱いており、日本の風潮的にはスクリーニングをすることが常識になってくるのではないかと話しました。
ー日本版DBSの法案の懸念点
日本版DBSはこどもを守り、こどもに関わる職業の人たちを守る法律ですが、そんな日本版DBSが果たしてうまく機能するのかを皆さんは危惧しています。

Kさん「職員全員1度疑われるという段階を踏むし、性犯罪=男性というイメージは強いから男性が居づらくなる雰囲気が生まれる。男性からすると、こどもに関わる仕事に就くことを避けようって思うかもしれない。保護者側に疑う癖がついちゃうのではないか。」
松尾さん「法律がどんどん厳しくなって男性保育士が働きにくくなる可能性はあるかもしれない。」
柴田さん「施行されたとき、警察による職質のようなニュアンスを受ける気持ちもわかる。」
男性職員への不信感や信用されていないニュアンスを受けてしまうのではないかという懸念の一方で、採用の面での課題も挙がりました。
Dさん「犯罪歴の照会にどれだけの時間を要するのか。パートで入るとなると、照会待ちですぐ働けないという壁が出てきてしまうのでは。」
そして、日本版DBS法が日本で導入されるには日本の人権を守る法律との矛盾があるという課題点があります。そんな課題点が施行決定した今でも挙がっています。
Dさん「地域に名の知れた保育園とかでDBS施行後に欠員が出たら、あの職員は犯罪を犯したのかもって地域にも居づらくなるのでは。それこそ人権問題。」
さらに、大橋さんはこどもだけが守られる対象な点も課題なのではないかと語ります。
大橋さん「知的障がい者の施設は性犯罪も含めた犯罪が起こる可能性が高い場所だと思っている。被害を受けていても受けている自覚がない点ではこどもと近しい状況。」
ー犯罪者を排除する以外の視点も交えて
性加害をした人をこどもから遠ざける大切さもある一方で、性加害をした人の行き場も課題であると話します。
松尾さん「犯罪者の中でもその人の性格や癖が入ってきていると再犯性が高いんだろうなと思う。そういう人たちをどんな形で社会の中で共存させるかが1つの大切な視点だと思う。加害者を追い込むだけでは別の形で犯罪が起こってしまうかもしれない。」

ー施行されるまでの1年で行動するべきこと
適切に施行されるためには、保育の現場に対してもこの法律に対してもマイナスなイメージがつかないように法律を知ってもらう必要があるのではないかと話していました。
大橋さん「こどもを守るための法律だから犯罪歴の調査結果を保護者に伝える必要はあるのではないかと思う。」
柴田さん「とはいえ、保護者にまでその調査結果の全てを伝えてもなという側面もある。」
松尾さん「性犯罪をした人のようなマイノリティの情報だけではなく、こどもに関わる職業のポジティブなイメージももっと伝わってほしいなと。」
そして、皆さんは性教育の大切さを話していました。
柴田さん「性教育を広めることを進めてほしい。保護者も一緒に受けるのが理想。」
松尾さん「僕の務める園には性教育の専門家が常駐している。認可の保育園には看護師がいて、定期的に性教育を行ってくれている。」
私が幼稚園にいたときは、性教育という言葉があまり身近ではなく、当然その専門家はいませんでした。性教育が広まれば、こどもは性加害から自身を守ることもでき、反対にやってはいけないことの区別を幼いころから理解できます。なので、そんな性教育が日常化してきたということを聞いて、徐々に進んでいる世の中を実感しました。
今回はこどもに関わる職業に就く男性の方々に取材をしました。女性の私では見えてこなかった男性ならではの葛藤を知ることが出来ました。
日本版DBS法が正しく導入されるためには、正しく知ってもらうことやこどもとその親への性教育の普及が不可欠です。
男性保育士に対して、こどもへの接し方に性的な感情でこどもを見ているのではと不信感を抱いて、苦言を呈す保護者の方も少なくありません。ですが、実際の保育をはじめとする子どもに関わる現場では、今回取材をした皆さんのように、真剣にこどもと向き合い、その保護者の方の気持ちも汲み取ろうと尽力されている方がほとんどです。
日本版DBS法が正しく広まり、正しく機能し、少しでもこどもに関わる職業の方々が気持ちよく働ける環境が出来上がればと思います。
次回は、日本版DBS法の立法に至るきっかけであった、有識者会議のメンバーである鎌倉女子大学児童学部教授の小國美也子先生から有識者の目線での話を聞いていきます。