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国会リポート 第297号(2014年9月22日発行)

ソニーの経常赤字が500億円から2300億円へと大幅下方修正されました。他の家電メーカーが軒並み業績を改善する中で一人負けの様を呈しています。

元ソニーOBである私にマスコミからその都度取材がありますが、今回はフィナンシャル・タイムズから取材を受けました。そもそもはアベノミクスバージョン2の取材を受けていた中で最後に予定外の質問として、「ソニーOBとして今のソニーの現状をどう思われますか?ソニーの不振の原因を何だと思われますか?」という質問が来ました。私からは「ソニーは常に業界の先陣を切ってフロンティアを切り開いていく企業です。イノベーションは常にソニーから発せられる。それが創業の精神です。そのお株をスティーブ・ジョブズに取られてしまったということです。」と答えました。

私が入社した43年前はオープンリールのVTRの市場にソニーがベータマックス型のビデオカセットレコーダーを発売した時でした。家庭でもビデオライブラリーが出来るまさに革命でしたし、ソニーのベータマックス方式は性能的にも当時のVHS方式を上回っていたと言われていました。東南アジアではベータマックスはビデオレコーダーの代名詞にもなっていました。そのベータマックスがやがてVHSに駆逐をされて行きます。技術的には上と信じながら、ソフトの充実でVHSに遅れを取ったからです。ハードが素晴らしくても流すソフトがなければ営業戦略としては負けと痛感したソニーはその後コンテンツ分野にのめり込んでいきます。コロンビア映画を買収し、CBSソニーとともにコンテンツの二本柱に据えます。コンテンツを制する者はハードを制する。しかしこの戦略は後に足かせとなります。

自身が芸術家であった大賀社長はステレオ音楽を移動先の飛行機の中でも聞きたいという課題を技術陣に出し、その結果生まれたのが世界を席巻したウォークマンでした。しかし、その栄華は長くは続かず、パッケージソフトに拠らないネット配信によるiPodにその座を獲って奪われます。灰分したところ、スティーブ・ジョブズはソニーに共同開発を呼びかけたということですが、CBSソニーというレコード会社を持っているがために、パッケージソフトの売れ行きが減るのを恐れてネット方式に踏み込まなかったということです。つまり、コンテンツ戦略が自らの製品開発を縛ったということです。

ハードの時代は終わったとか、ネットがハードを支配するとか、あらゆる工業製品はネットの端末機器に過ぎないと云ったことがよく言われます。一面はそのとおりですが、だからと言ってモノづくりをないがしろにすると日本産業は痛い目に遭います。

例えば電力システムはその系統をどう合理的に管理するか、ネットで端末機器の電力消費をどう合理的に管理するかがこれからの中心課題ですが、新エネ等不安定なエネルギーをシステムに組み込んでいくのに要となるのは大容量蓄電機です。リチウムイオンの欠点をカバーする大容量蓄電池はレドックス・フローしかありません。40年前のNASAの特許ですから誰でも使えますが、住友電工以外にまともな製品は作れません。中国製は3日で液漏れを起こし、使用不能になりました。そこには絶え間ない モノづくりの力があるからです。どんな優秀な機器でもネットの世界では単なる情報端末の一つ。さはさりながら世界に冠たる日本のモノづくりがなければ インターネットシステムはうまく機能しないのです。

要はモノづくりにこだわり続けながら単なる下請け工業国に日本がなってしまわないように、頭の半分でネットとのイノベーションを考えながら、残りの半分でモノづくりへのこだわりを持っていくことです。成長戦略のフロンティアの一つにロボット革命が掲げられています。その戦略会議の現状は製造技術関係者の集まりでそれ自身は重要なのですが、残りの半分(ネットイノベーション)を忘れるとロボット革命下請け工業会になりかねません。
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衆議院議員〈比例代表 南関東ブロック〉

甘利 明

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