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国会リポート vol.311(2015年5月24日)

TPP交渉が大詰めにきて、若干もたついています。アメリカ議会の通商規制権限を縛るTPA法案の可決がずれ込んでいるためです。アメリカを除く各国は、内閣に条約を締結する権限があり、議会はそれを全体として承認するか否決するかの権限だけ付与されています。国によっては議会にかける必要もないところもあります。しかし、アメリカは通商協定に対し、規制権限、つまり、修正を求める権限をもっています。そうしますと、何千という項目からなるTPP協定を妥結後に修正をするということになれば、蒸し返しで、もう一度全体交渉をやり直さなければなりません。それでは、妥結の意味がなくなります。ですから、各国はアメリカ議会が通商協定全体をパッケージとして、イエスかノーかで判断する他国の議会と同じ条件にしてもらわなければ、まとめるための最終カードは切れない、ということになり、交渉はそれ以上進まなくなってしまいます。


 


アメリカ以外の議会承認を要する国は、最初からTPA法案が常備されているとも言える仕組みなのです。この違いは、通商協定交渉における政府と議会の憲法上の建て付けが異なることに起因します。アメリカを除く各国は、秘密保持契約と情報開示要求との狭間で、日本と同じように苦しんでいます。一方、アメリカは国会議員にテキストへのアクセスを認めていますが、情報漏えいに対しては、議員資格はく奪という懲罰や、禁固懲役に当たる刑事罰まで設定をされています。アメリカ議員から情報が全く洩れてこないのは、その縛りによるものと思われます。ただしそのアメリカでも、議員に開示がされるのは、ルールのテキストであり、日本の与野党議員の最大関心事である関税譲許表は開示されておりません。アメリカはTPP協定調印の60日前に内容を公開すると言っていますので、その時には各国はイコールフッティングを主張してきます。どう平仄を合わせていくか、妥結後の対応を検討していかなければなりません。


 


 


 


さて、いよいよ安全保障法制のパッケージ案が国会に提出をされました。平時から有事にいたるまで、事態の深刻さに応じて切れ目なく対応ができるための法整備です。日本への軍事的脅威とは無関係の国際平和協力から始まって、日本に大きく影響を与える事態での他国軍への後方支援、そして、ほっておけば、日本の存立の危機に至る友好国への武力攻撃に対する防衛出動、そして、日本自身への武力攻撃に対する対処まで、脅威の小さなものから最大脅威まで、切れ目なく対処できるように穴をふさいでいくものです。


 


つまり、「対処方針が未定、事態が起きたときに考える」ということの無いように隙を作らないということです。その中で、集団的自衛権の行使が最大の論点になっています。どこかの国に理不尽な攻撃を仕掛けると、よってたかって反撃にあう、という仕組みがあれば誰もうかつに手は出せません。集団的自衛権は国連憲章上、どの国にも認められている権利であり、日本も保有はしているが、憲法上の制約があり、行使は出来ないという立場をとってきました。しかし今や、どの国も単独の自衛権だけで他国の攻撃を跳ね返すことができない状況になりつつある以上、自国の存立の危機には複数国で対処し、それをもって抑止力とするという状況になりつつあります。中国も韓国も集団的自衛権を行使しないとは言っていません。日本は憲法の範囲内で三要件をつけて限定的にこれを行使することで存立の危機に対処しようとしています。


 


1) 日本と密接な関係にある他国が受けている武力攻撃を放置しておけば、日本の存立にかかわる事態の場合。


 


2) 他に適切な手段がない場合。


 


3) 必要最小限の武力行使にとどまる。


 


以上の三要件を満たした場合の防衛出動です。小さな危機から大きな危機まで対処に穴があいているようでは間隙をつかれます。付け入る隙のないシームレスな体勢はどの国も整備しているところです。


 


与野党を通じた真摯な議論が期待されます。

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衆議院議員〈比例代表 南関東ブロック〉

甘利 明

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