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国会リポート vol.352(2018年3月27日)

 トランプ大統領が打ち出した一方的な輸入制限措置が世界中に波紋を広げています。世界の株式市場は株安連鎖に陥り、日本市場も連日下落をしています。米国と貿易協定を持ち、再交渉を行っているカナダ・メキシコ・韓国などの地域はこの協定交渉の中で処理するという理由で「当面は」除外されていますが、実はそれは交渉で満足のいく対案が出来るまで、一時的に猶予されるに過ぎないという事です。オーストラリアはアメリカ側の貿易黒字を理由に除外されました。結果としてアメリカが貿易赤字を持ち、二国間通商協定も持っていない中国・日本・ロシア等がその対象という形になりました。特に中国には、安全保障を理由に全世界に向けた通商法232条による鉄鋼とアルミの輸入制限とは別に、中国が米国の知的財産権を侵害しているとして、中国のみ通商法301条に基づく五~六兆円に及ぶ制裁関税を発表致しました。中国は、報復関税を課すことを発表し、いよいよ米中貿易戦争の様相を呈してきました。


 日本からアメリカへの主要輸出鉄鋼製品はアメリカで生産が困難な高品位製品であり、代替物が無くこれを使用せざるを得ない米国産業は、関税分だけ製品が高くなるという事で皺寄せはアメリカの消費者にいきます。鉄鋼やアルミを安全保障上の理由で制限するという意味はよく分かりませんが、世界にとっての懸念は、アメリカへの行き場を失った中国鉄鋼製品がアジア市場にダンピング輸出され市況を荒らす事に加え、最大の懸念は、保護貿易が加速し、貿易量の拡大にパラレルに伸びていく世界のGDP成長率が減速するという事です。


 トランプ大統領の中国に対する怒りは、アメリカの貿易赤字の半分を中国が占めるというインパクトに加え、中国への投資を計画する米国企業に対して中国当局が技術移転を強要し、知財を盗用するという点です。かつて日本企業も中国に製造委託をし、設計図面を渡すと図面だけ盗用されお払い箱になるという事案が多発しました。また、中国合弁企業への技術移転が完了すると翌年には合弁を解消され追い出される等々の事案が多発しました。技術移転の強要やソフトプログラムの設計図たるソースコードの開示要求、電子商取引の核となるサーバーの中国国内設置義務らは全てTPPでは禁止されています。トランプ大統領の怒る対中政策は、全てTPPに盛り込んであるという事にそろそろ気づいてもらいたいものです。  


 それにしても、いよいよ中国「皇帝」になった習近平主席がソフトパワーならぬシャープパワーで世界を支配してくるとNED・全米民主主義基金が報告書で警鐘を鳴らしています。シャープパワーとは、独裁国家が他国に自国の方針を飲ませようと「工作・嫌がらせ・圧力」と強引な手段に出たり、海外世論を操作したりするような行動です。


 大学キャンパスにも進入し、中国に批判的な発言をする教授は中国系学生に集団で批判をさせ、ネット上でも炎上させ発言を封ずる。世界中の大学に設置される孔子学院もシャープパワーの先兵だとして警鐘が鳴らされています。各種研究機関や評論家、政治家にも手をまわし、世論誘導を行う。米国のシンクタンクCSISは中国企業家からの巨額のドネーションを断わるようです。トランプ大統領の対中国強行姿勢はこの辺にもありそうです。

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衆議院議員〈比例代表 南関東ブロック〉

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