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国会リポート vol.383(2019年6月12日)

 「福祉は守り抜く!」 消費税引き上げの理由は、この一言に尽きます。来月予定されている参議院選挙に際し、国民の関心政策は景気と社会保障です。年金・医療・介護・福祉・社会保障政策全般にかかる費用は34兆円で、国家予算の3分の1を占めているにもかかわらずその財源の半分は、赤字国債による借入金で賄っています。国民が社会保障の継続性に不安を抱くのは正にそこにあります。消費税を目的税化し、社会保障以外には使用しないとしたのは、その一歩であり、10月から10%に引き上げるのも財源安定化への道です。大法人や高額所得者の税率を引き上げ、その財源とせよという声は野党の一部が主張されますが、国際標準とかけ離れた課税をすれば税源である対象が海外逃避しかねませんし、そもそも景気動向による振れ幅の大きい税源では社会保障を安定的に支えることは出来ません。


 米中貿易摩擦が世界経済に影を落とし日本の景気も天井を打ったと言われている今日、いっそのこと消費税引き上げを延期すべきだとの声もありますがそもそもリーマンショック級の景気後退が無ければ実行すると言いつつ反動減対策を講じてきた以上、延期する方が混乱を起こしかねません。ここで多少の景気後退があったとしてもリーマン級には程遠い規模のものです。


 消費税引き上げにとって一番避けなければいけないのは、反動減です。そしてその原因は、駆け込み需要にあります。駆け込み需要を減らせば減らすほど反動減は少なくなり、反動減が少ないほど経済は、安定的に推移していきます。通常、反動減は駆け込み需要の2倍の規模になります。山が上がった分が元に戻る分と翌期の需要を先食いしてしまった分が減るために反動減は駆け込み需要の2倍の規模になります。


 5%から8%に引き上げた際は、駆け込み需要の5倍の反動減がありました。つまり、通常の規模で起こる駆け込みが異常に起こった分、反動減は経済の方程式を超えて発生しました。落ちた消費が元に戻るには2年の歳月を要しました。当時200名の識者から上げる環境にあるか否かをヒアリングしましたが、数少ない慎重論者の中で浜田宏一名誉教授が「上げるなら1%ずつ」との発言が思い起こされます。ここから学んだことは、駆け込みをゼロにすれば、反動減はゼロになり、消費税引き上げの後に投入する景気浮揚対策は、最大の効果になるという事です。大きな買い物、つまり車と住宅は、消費税を上げる前に買おうと上げた後に買おうと購入者負担は変わらないという税制上の加工を致しました。


  合わせて、引き上げ日の10月1日からは幼児教育の無償化や低年金生活者への給付金がスタート致します。住宅は、完成引き渡しまで日数がかかる為4月契約からは、事実上10%対応ですがその前の契約で特段駆け込み需要は発生をしておりません。駆け込み需要を無くし、反動減を無くすという政策は、比較的うまくいっているようです。しかし、月例経済報告や日銀短観のような経済指標には最大の注意を図り景気後退が大きくなりそうなら追加の経済対策を躊躇すべきではありません。


  アメリカは好景気を維持していますし、中国は減税や財政出動の余地をまだまだ残しています。中国の技術窃取・技術覇権に対する米国の懸念が無くなることは当分ありませんが、世界経済不安を緩和する方向には両国の協議は進むはずです。日本は怯むことなくイノベーションのエコシステム(生態系)の構築に向かって邁進すべきなのです。

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衆議院議員〈比例代表 南関東ブロック〉

甘利 明

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