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国会リポート vol.432(2022年1月19日)

 新しい資本主義とは何か。古い資本主義とどこが違うの。政府の説明を聞いても今ひとつ頭が整理されないという人が多いのではないでしょうか。今までの資本主義は市場の原理に任せていれば基本的には上手く経済社会は運営されていく、はずでした。しかし世界中で起きている現象は富める者はより富んで、富まざるものはより富まざるほうへと二極化現象が顕著になっています。日本は修正資本主義というか他の先進国より、中間層が厚くボリュームゾーンを成しています。その日本ですら、貧困化が問題になっています。だからといって能力のあるもの、努力をしている人もそうでない人と結果平等になるなら資本主義とは言えません。


 20年前、会社は誰のものかという議論がアメリカ主導で日本でも起こり、商法上は会社は株主のものという議論が主流になりました。その本家アメリカの経済団体から2~3年前からマルチステークホルダー論が発せられ、会社は株主だけのものではなく従業員、顧客、取引先、下請け企業、地域社会つまり企業はマルチステークホルダーに貢献する存在、企業は社会的存在であるという議論が喚起されました。「あなたに言われたくない」というのが日本の本音です。売り手良し、買い手良し、世間良し。近江商法の三方良し経営は日本企業経営の哲学と言われてきました。つまり古い資本主義が企業は株主の為にあるとすれば、新しい資本主義は企業は社会の為にあるということになります。しかしこれだけでは、新しい資本主義とは言えません。ここで言う新しい資本主義とは「分配を成長の牽引力にさせる」という設計です。利益剰余金を使って賃金を継続的に引き上げて行っても、それだけでは原資が尽きれば分配はとまります。野党が主張しているかつての分配論はまさにそこにネックがあるわけです。分配を続けるためには、売値を上げるか仕入れ値を下げるかしかありません。仕入れ値を叩いて利益を確保すれば、叩かれた方は分配できません。結果、デフレ経済からの脱却はできません。売値を上げる、つまりコストの何倍で売るかというマークアップ率を上げる経営に切り替えよということです。売値を上げても競争に勝てる製品、サービスにするためには継続的イノベーションが必要になります。そこで先ずは従業員のイノベーション投資、つまりスキルアップ投資が必須になります。そして次に企業自身のイノベーション投資、つまり研究開発が必須です。


 私は10年前から日本にイノベーションが連続的に湧き出る生態系、イノベーションエコシステムを作るためのチームを編成し、作業を続けてきました。イノベーションの最上流にあるのは大学です。大学を知識集約産業と捉え「運営する」という、親方日の丸方式から知識産業として「経営して行く」という意識、組織改革に取り組んで来ました。経営者ならば大学内のアセット(知的資産)をビジネス化していくという感覚が育まれます。世界の一流大学と日本の大学との差はこの点につきます。世界中の一流国公私立大学が持っているエンダウメント(運用基金)は数千億から数兆円です。この運用益を基礎研究へと投じていきます。日本の各大学の基金は世界の100分の1以下。そこで官製基金10兆円を作り、その運用益を改革を実践した大学のみに配分をし、研究能力の増強を図っていきます。大学の基礎研究から企業の実用化研究、そして社会実装へとシームレスに繋げていくシステムです。企業のマークアップ率を欧米並みに引き上げる。そのために企業自身が絶えずイノベーションを起こしていく環境を作っています。国立大学86校と国立研究機関の研究シーズのデータベース化も世界で初めて作成中です。賃上げを連続的に行う、その企業のスキルアップを図る、その企業のイノベーションを継続的に行わせる。そのために基礎研究から社会実装までをシームレスに繋げていく環境を作る、つまり分配が成長の推進装置となる設計を通じて、経済を支えていく中間層をより太くしていく資本主義を創りあげなければなりません。

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衆議院議員〈比例代表 南関東ブロック〉

甘利 明

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