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国会リポート vol.434(2022年3月12日)

 ロシアのウクライナ侵攻が3週目を迎えています。プーチン大統領の目論見を越えて長期化するにつれ、過激な言動が顕著になってきました。学校や病院への攻撃も厭わない無差別殺戮の様を呈してきました。プーチン大統領の狂信的な冷酷さが次第に発現してきています。国際社会の経済制裁が強化されるにつれ、核兵器の使用まで匂わせています。もはや常軌を逸した強権的指導者をロシアは擁してしまったわけです。ロシア国内の良識ある市民は反戦デモを繰り返していますが、これに対する弾圧も苛烈になり、報道する国際マスコミにも重罪を科しています。


 ウクライナはNATOの一員ではないので、欧米は集団的自衛権を行使できません。国連安全保障理事会で制裁を加えようにも当事者が常任理事国である以上、国連は無力です。プーチン大統領の狂気じみた対応の裏にはNATO加盟国とロシアとの間のバッファーゾーンが無くなりつつあることへの恐怖感もあると思われます。バルト三国がNATOに加盟し、バルト三国からポーランド、ルーマニアまでNATOラインが出来上がり、ウクライナが加盟すれば残るはベラルーシだけという強迫観念が元KGB、プーチン大統領のDNAを煽っていると思われます。そもそも選挙制度で言えばロシアは民主化して国民が自由に指導者を選べる体制になったのですから、自由と民主主義、人権、プライバシー等共通の価値観を共有する指導者が出現すれば、NATOのロシアに対峙するという当初の目的は次第に薄れていくはずです。


 今回の経済制裁と言う手法を通じて、現在国会で議論が始まろうとしている経済安全保障の重要性が明確になって来ました。EUは天然ガスの供給の4割をロシアに依存し、ドイツに至っては5割をロシアのパイプラインに依存し、しかも液化天然ガスのプラントも持たない脆弱性が露呈してきました。かくいう日本も天然ガスの8%をロシアに依存しています。現在、電力供給の予備率は3%しかありません。ロシアからの供給は止まればこの3%が吹っ飛ぶ懸念があります。現在30基を抱える原発が10基しか動いておらず、これが動けば経済安全保障上のリスクが劇的に軽減します。世界一厳しい規制委員会の安全基準をクリアした原発は、迅速に再稼働するということが経済安全保障上、なかんずくエネルギー安全保障上のチョークポイントを克服する、つまり経済安全保障上の自律性を確保することになります。アメリカを中心に貿易等の国際決済手段を事実上凍結させる、国際銀行間通信協会(SWIFT)からの除外をロシアの銀行にかけていますがEUがロシアにエネルギー依存をしているために、エネルギー決済関係の金融機関は除いてあります。ゆえに本来は最強の経済制裁手段であるSWIFT除外の効果が半減しています。経済安全保障は平時からの備えですが、有事にならないとその必要性が強く認識されないという点を今回の有事を通じてしっかり認識すべきです。


 そもそも戦争の概念は1999年、中国人民解放軍海軍大佐の2人が上梓した著書『超限戦』により劇的に変わっています。従来の武力による戦争だけでなく、サイバーから宇宙、はては文化浸透、フェイクニュースを通じたフェイク世論形成等、ありとあらゆる手法が武力になるという考え方です。SNS上の意見表明があたかもその国の世論であるかのよう偽装誘導するのも超限戦の重要な要素です。SNSで世論を操作し、それが国民の声であるかのように擬装する極めて巧妙で危険な戦争手段です。日本の経済安全保障政策の発案者である私にも某国からのフェイク世論操作が度々あると色々な方から指摘をされました。「都合の悪いオピニオンリーダーを潰す」これも超限戦の重要な要素です。

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衆議院議員〈比例代表 南関東ブロック〉

甘利 明

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