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神奈川県議会 文化スポーツ観光常任委員会 県外調査(北海道網走市・北見市)初日/公益財団法人 網走監獄保存財団(博物館網走監獄)

「負の遺産」を観光資源へ――博物館網走監獄を視察

本日から3日間、神奈川県議会・文化スポーツ観光常任委員会の県外調査で北海道を訪れています。初日の調査先は、網走市の「博物館網走監獄」です。

博物館網走監獄は、明治期の網走刑務所の建造物を保存・公開する野外歴史博物館です。北海道開拓の歴史とともに、囚人たちが過酷な環境の中で道路建設などに従事した歴史を伝えています。

「負の遺産」を伝えるダークツーリズム

今回の視察で強く感じたのは、博物館網走監獄が単なる観光施設ではなく、「ダークツーリズム」の重要な拠点にもなっているということです。ダークツーリズムとは、戦争、災害、事故、犯罪、刑罰など、人類の負の歴史や悲劇の現場を訪れ、その歴史を学び、考える観光のあり方です。網走監獄には、北海道開拓の歴史だけでなく、囚人たちの過酷な労働や刑罰の歴史があります。だからこそ、歴史の明るい部分だけを切り取るのではなく、光と影の両面を正しく伝えることに大きな意味があります。

失われる前に、地域が守った文化財

今回、特に印象に残ったのが、文化財として保存されるまでの経緯です。昭和48年(1973年)、網走刑務所の全面改築計画により、明治期の建物が失われる危機に直面しました。これを受け、当時の網走新聞社主・佐藤久氏が建物の移築・保存を提唱。市民の保存運動が広がり、行政などの支援も得ながら、昭和55年には財団を設立。昭和56年から順次移築され、昭和58年に博物館として開館しました。そして、長年にわたる保存・調査活動の結果、平成28年(2016年)には、庁舎、舎房及び中央見張所、教誨堂の3棟が国の重要文化財に指定されました。

つまり、「文化財に指定されたから保存した」のではなく、「失われる前に地域が価値を見いだし、守った結果、後に重要文化財として評価された」ということです。地域の文化財をどう守り、どう活用するのか。地方の文化・観光政策を考えるうえでも、大変示唆に富む取り組みです。

「網走の新しいものは、すべて監獄から始まった」

現地で伺った、こんな言葉も印象に残りました。「網走の新しいものは、すべて監獄から始まった」明治期、網走には国の施設として刑務所が置かれ、国費によって運営されていました。そのため、当時としては先進的な暖房設備や農業技術などが導入され、それが地域にも波及していったといいます。監獄は、北海道開拓における道路建設などの労働力を担っただけではありません。国の施設として新しい技術や設備が集まり、結果として網走のまちの発展にも大きな影響を与えたという側面があります。まさに、網走の歴史を語るうえで、監獄の存在を抜きにすることはできません。

人口減少の時代に、どう文化財を守るのか

今回の視察で、特に考えさせられたのが、人口減少と観光施設の維持という問題です。網走でも少子化・人口減少が進み、地域の子どもたち、そして国内の観光客だけを頼りにしていては、将来的にこうした歴史的施設を維持していくことが難しくなります。地域の子どもたちが減り、国内市場も縮小していく。

そうした中で、貴重な文化財を守り、次の世代に残していくためには、海外から人を呼び込む「インバウンド」が極めて重要になるという現実があります。これは、単に外国人観光客を増やして経済効果を上げようという話ではありません。人口が減っても文化財を守り続けるための財源と人の流れを、地域の外から確保する。そのためのインバウンドでもあります。

文化財×観光×地域経済

博物館網走監獄は、累計入館者数が1,400万人を超え、北海道を代表する観光施設の一つとなっています。旭山動物園に次ぐ集客力を持つ施設としても注目されます。また、入館料などを活用しながら施設運営を行い、行政に依存するだけではなく、歴史・文化資産そのものを観光資源として活用している点も大きな特徴です。 VRによる建物の再現、6か国語の解説動画、現在の網走刑務所の食事を再現した「体験!監獄食」など、見るだけではなく、五感で歴史を体験できる工夫もされています。さらに、漫画・アニメ・映画「ゴールデンカムイ」の舞台としても知られ、若い世代や外国人観光客にも来館者が広がっているとのことでした。

「来てもらう」のではなく「自ら売り込む」

インバウンドを増やすためには、まず「知ってもらう」ことが必要です。博物館網走監獄では、網走市観光課や網走観光協会と連携し、修学旅行やインバウンドの誘致に取り組んでいます。香港、台湾、中国など海外市場への情報発信にも力を入れています。特に印象的だったのは、財団の職員(今野久代副館長)自らが海外に出向き、現地で広報・プロモーションを行っていることです。海外から観光客が来るのを待つのではなく、自ら現地に足を運び、「網走に来てください」「博物館網走監獄を訪れてください」と直接伝える。人口減少が進み、国内の観光市場だけでは施設の維持が難しくなる中で、海外市場を新たなお客様として開拓していく。そこには、文化財を守るために必要な収益を、自らの力で生み出していこうとする強い意志を感じました。

マスコミからの取材を積極的に受け入れ、映画などのロケ地として撮影協力することも、施設を知ってもらう大きなきっかけとなっています。さらに、XやブログなどSNSを活用した広報にも取り組んでいます。SNSでは、「いいね」やコメントなどの反応をすぐに確認できるため、何が人を惹きつけるのかを把握し、次の情報発信につなげることができます。

「来てもらう」のを待つのではなく、「来てもらうために自ら動く」。 この積極的な情報発信の姿勢も、今回の視察で学んだ大きなポイントの一つです。

「一年を通じて訪れたくなる」仕掛け

さらに興味深かったのが、日本の四季や年中行事そのものを観光コンテンツとして発信していることです。「看守長屋の年中行事」として、子どもの日の兜作り、七夕の流しそうめん、十五夜、鏡餅作り、七草粥の提供、絵馬作り、鏡開き、節分の豆まき、雛祭りなど、年間を通じてさまざまな行事を開催しています。単に「博物館があります」と発信するのではなく、その時期にしか体験できない日本の文化や季節を伝える。これは、特に訪日外国人にとって魅力的な体験になります。そして、行事に参加した人が写真をSNSに投稿し、それをインフルエンサーがさらに拡散する。施設が発信するだけではなく、来館者自身が情報発信者になる。こうした口コミとSNSを組み合わせた情報発信は、広告費だけでは生み出せない広がりを持っています。

「保存する文化財」から「活用し、稼ぐ文化財」へ

「負の遺産」を、単に保存するだけではなく、正しく歴史を伝えながら、観光や地域経済につなげていく。その中には、「保存する文化財」から「活用し、稼ぐ文化財」へという視点があります。もちろん、歴史の光の部分だけでなく、囚人たちの過酷な労働など、負の側面も含めて正しく伝えることが大切です。だからこそ、負の歴史を隠すのではなく、学び、考える場として活用することに大きな意味があります。神奈川県にも、歴史や文化に根差した多くの資産があります。

人口減少時代に、どう文化財を守り、どう観光資源として活用し、どう次の世代につないでいくのか。国内だけでなく、海外からも人を呼び込み、文化を伝え、地域経済を支える。今回の視察で得た知見を、今後の県政活動にしっかり生かしていきたいと思います。

館内の写真撮影について

館内は写真撮影が可能でしたが、展示内容や施設の性格などを踏まえ、今回はSNSへの写真掲載は自粛しました。ぜひ現地を訪れて、実際にその空間を感じていただきたいと思います。

今回の視察について

本稿は、私自身が現地で見聞きしたことや、印象に残った取り組みを個人の視点でまとめたものです。常任委員会としての正式な県外調査報告は、後日、県議会から公開される予定です。文責は、さとう知一にあります。

明日は、オホーツク総合振興局、北見市教育委員会を訪問し、広域観光、文化振興、スポーツ振興について調査します。

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県議会議員〈厚木市・愛川町・清川村〉

佐藤 知一

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