• このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を印刷

国会リポート 第286号(2014年4月14日発行)

オランダのハーグで開催された核サミットにて、急きょ持たれた日米首脳会談でTPPの交渉加速が合意され、それを受けてアメリカUSTRのフローマン代表が来日しました。その直前に、日本オーストラリア経済連携協定(日豪EPA)が大筋合意に至りましたが、これはTPPと微妙な関連性を持っています。

そもそも日豪EPAは7年前の第一次安倍内閣の時にスタートしたもので、その時の貿易大臣は私でした。停滞していた交渉はオーストラリア側がより交渉に前向きな政権に交代をし、日本側も安倍内閣で始めたことは安倍内閣で決着をするという熱意の下に、アボット豪州首相来日の際に合意に至ったものです。安倍首相の次回オーストラリア訪問の際に、調印に至るべく作業中のようです。

TPPとの微妙な関連性とは早ければ来年早々にも発行するであろう日豪EPAにより、オーストラリアの牛肉はアメリカのそれより10%近い関税上のアドバンテージを持つということになります。このアドバンテージが続けば続くほど、日本の商慣行にオーストラリア牛肉が定着していきます。日豪EPAとTPPとの間には、3年程度タイムラグがあると言われていますので、アメリカとしては1日でも早く追いつかなければ取引の信頼関係が定着してしまった後では割り込みづらいと考えるわけです。大事なことは、最終関税率もさることながら、初年度にどれくらい削減されるか(フロントローディング)が競争力の差になります。冷蔵肉で6%、冷凍肉で8%豪州産がアドバンテージすなわち競争力を持ち、TPPが発効するまでその差は年々広がり続けます。

さて、日米TPP閣僚交渉は2日間で延べ18時間に及びました。案件は重要5品目と自動車です。日本側は党選挙公約や衆参の農水委員会における国会決議とどう整合性をつけるかの縛りがあり、米国側も議会が受け入れる最低水準を探している状況です。私が知る限り大臣どうしで18時間に及んだ会議は例を見ないと思いますが、それだけ状況は厳しいということです。一定の前進はありましたが、まだまだ距離感は相当あります。今後、事務方で調整できるものは調整し、再度間合いを詰めるべく次は国会の許可がもらえれば私が渡米をすることとなりました。

このニュースが流れた途端、党の農業関係会議より決議文を渡されました。要すれば安易な妥協はするなということでした。もとより、安易な妥協はするつもりはありませんし、今日まで党公約や国会決議を踏まえて厳しい交渉をしてきたつもりです。いっそのこと、決裂をさせてしまえとの声も聞こえますが、私に与えられた使命が「TPPを決裂させろ」というなら話は簡単です。1分でやってみせます。あるいは、「センシティビティーを無視していいから、まとめろ」というなら、これも簡単な話です。しかし、「センシティビティーを守りつつまとめろ」というミッションであるから、塗炭の苦しみとなるわけです。来週にはオバマ大統領が国賓としてやってきます。共同会見も開かれるでしょう。日米の結束がアジアの安定の礎であることに異論はないと思います。日本はモノ言うパートナーとしてアメリカと連携していかなければなりません。

国会の許可を頂ければ水曜からアメリカに行ってまいります。オバマ大統領の訪日までにどこまで距離を縮められるか、タフな交渉となります。先方の主張を唯々諾々と飲むつもりは毛頭ありません。しかしまだ相当ある距離感をセンシティビティーに配慮しつつ、少しでも縮める努力はしてまいります。

さて、今週の産業競争力会議にイノベーションナショナルシステムたる甘利プランを提案する予定です。イノベーションナショナルシステムとは、世界を変えていくようなイノベーション(ここでは技術革新にフォーカスを絞りますが)は、常に日本から発信されるというための国家システムです。企業による技術革新はどうしても改良型になります。アベノミクスでは企業の研究開発を促進するための大胆な減税政策や、予算措置をいたしました。しかし、研究開発に熱心な大企業といえども、その費用の9割が5年以内の製品の市場化に焦点をあてたものであり、10年以上の長期を見据えた研究開発費は1%程度です。世界をリードするような技術革新は現状の延長線上にはありません。非連続性から革新的発明は生まれます。基礎研究や原理研究のようなところから産業化につながるシーズ(種)を見出していかなければなりません。大学や大学院の基礎研究をどう産業化につなげていくか、基礎研究の現場に産業化という意識をどう持ち込んでいくかが要です。

そのためには、基礎研究を民間企業の実用化研究へと橋渡しをしていくシステムが必要です。その橋渡し役をバージョンアップした研究開発独立行政法人が担います。そのためには、大学と橋渡し役の新研究開発独法とが柔軟な人事交流を行い、且つ橋渡し場所で官民の人材が交流できることが必要です。そして、優秀な研究者を世界中から招へいできる柔軟な人事給与社会保障システムも必要になります。大学、大学院の基礎研究から企業の市場化製品化まで一気通貫でつなげていくシステムです。大学院で教鞭をとる教授が同時に研究開発独法にも所属をし、両方から半分ずつの給与と社会保障を得るというような体制も提案をしていきます。上流の大学大学院改革も必須でしょう。教授会が大宗を仕切るようなガバナンスではなく、世界トップ100を目指す大学は国際的評価に耐えうるグローバルガバナンスにしてかなくてはなりません。国立大学法人の運営費交付金の激変緩和措置は、もうそろそろ終了し、抜本的再配分に踏み切るべきです。その上で、上流から下流までイノベーションナショナルシステムの指揮をとるのは、科学技術の司令塔たる総合科学技術会議の仕事です。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を印刷

衆議院議員〈比例代表 南関東ブロック〉

甘利 明

あまり あきら

甘利明

プロフィールを見る

月別アーカイブ