コロナの次を考える――いま知っておきたいニパウイルス
新型コロナウイルスは、私たちの生活を一変させました。一方で、致死率が極めて高いことで知られるエボラウイルスは、世界的なパンデミックには至っていません。この違いは、医療技術や国際協力の有無だけで説明できるものではありません。
感染症の拡大には、ある「逆説」があります。それは、致死率が高すぎる感染症は、かえって広がりにくいという事実です。
エボラは、発症すると急激に症状が悪化し、患者は短期間で重篤な状態に陥ります。行動は大きく制限され、周囲もすぐに異常に気づきます。その結果、隔離や封じ込めが比較的早く行われやすく、「人が移動しながら感染を広げる時間」を持ちにくい感染症だと言えます。
一方、コロナはどうだったでしょうか。
発熱や咳といった軽い症状、あるいは無症状のまま、人と接触し、移動し、日常生活を送ることができました。動ける感染者が、気づかれないまま感染を広げる。この性質こそが、世界的流行を引き起こした最大の要因でした。
もっとも、コロナ禍を経て、私たちは多くを学びました。検疫体制の強化、感染症指定医療機関の運用、個人防護具の使用、自治体と医療機関の連携など、新感染症への対応力は確実に底上げされています。この経験は、将来の感染症対策にとって大きな財産です。
しかし、そこで油断してはならない感染症があります。最近、専門家や報道で名前が挙がる機会が増えているのが、ニパウイルスです。
ニパウイルスは1990年代に東南アジアで確認され、現在も南アジアを中心に散発的な流行が報告されています。自然宿主はコウモリで、汚染された食物や動物を介した感染のほか、人から人への感染も確認されています。
日本国内で流行しているわけではありません。しかし、致死率が非常に高く、治療法やワクチンが確立されていないことから、国際的にも「次に警戒すべき感染症」として継続的に監視されています。ニパウイルスは、エボラと同じ「レベル4」に分類される極めて危険なウイルスです。
それにもかかわらず、初期症状は風邪に似ており、潜伏期間中に移動できてしまう場合があります。さらに、人から人への感染も起こり得ます。
つまりニパウイルスは、「エボラ級の危険性」と「コロナ型の広がり方」を併せ持つ可能性がある感染症なのです。感染症対策で最も重要なのは、恐怖ではなく備えです。
コロナで得た教訓を、次に生かせるかどうか。未知の感染症に対して、行政、医療、そして私たち一人ひとりが、冷静に、しかし確実に準備できているかが問われています。
コロナの次を考えるとき、ニパウイルスは「遠い国の話」ではなく、いま知っておくこと自体が、最大の予防策なのだと思います。
2026年01月31日 08:08
