レアアースは「土の中の外交カード」だ
スマートフォンや電気自動車、風力発電設備。
私たちの暮らしを便利にし、脱炭素社会を支えるこれらの技術には、レアアースと呼ばれる希少金属が欠かせません。レアアースは、もはや一部の専門家だけの話ではなく、私たちの日常と直結する存在になっています。
レアアースは「希少」という名前から、地球上にほとんど存在しない資源だと思われがちです。しかし実際には、地球上に広く分布しています。問題は量ではなく、採掘や精錬が難しく、生産と供給が特定の国に偏っている点にあります。この偏在性こそが、レアアースを単なる資源ではなく、外交や安全保障のカードへと変えています。
供給を止めるだけで、相手国の産業や経済に大きな影響を与えられる。武力を使わずとも圧力をかけられる時代において、レアアースは「土の中の外交カード」と言える存在です。
一方で、レアアースは私たちの生活を静かに支えています。スマートフォンの振動機能、電気自動車のモーター、医療機器の高性能部品。どれもレアアースなしには成り立ちません。普段は意識されませんが、もし供給が不安定になれば、私たちの生活は一気に不便になります。レアアースは、まさに“見えない必需品”です。
さらに皮肉なことに、脱炭素社会を目指せば目指すほど、レアアースへの依存は強まります。環境にやさしいとされる再生可能エネルギーや次世代モビリティほど、高性能な磁石や電子部品を必要とし、その多くにレアアースが使われています。その一方で、採掘現場では環境破壊や有害物質による汚染が問題視されており、「環境のための技術が、別の場所で環境を傷つけている」というジレンマも抱えています。
この問題は、国レベルの外交や産業政策だけの話ではありません。県政にとっても、決して無関係ではない課題です。県内には製造業や研究開発拠点が集積しており、安定した資源供給を前提に産業と雇用が成り立っています。サプライチェーンが一つ途切れるだけで生産が止まる現代において、レアアースの供給不安は、地域経済に直結するリスクとなります。
また、脱炭素やGXを掲げ、再生可能エネルギーや次世代技術の導入を進める自治体であるからこそ、資源制約の現実を直視する必要があります。環境施策を進めるだけでなく、その背景にある資源の調達や国際情勢、環境負荷まで含めて考える視点が、県政にも求められています。
日本は資源に乏しい国だと言われますが、その分、リサイクル技術や省レアアース技術、代替素材の研究を積み重ねてきました。使用済み製品から資源を回収する「都市鉱山」や、大学・研究機関・中小企業との連携は、地域産業の競争力を高める大きな可能性を秘めています。「持たない国」だからこそ、「依存しすぎない仕組み」をどう作るのか。その一端を、県政が担うこともできるはずです。
レアアース問題は、未来の資源戦争の予告編とも言えます。エネルギーを巡る争いの次は、より静かに、しかし確実に、資源を巡る緊張が高まっていくでしょう。私たちの足元にある土の中の資源が、世界の力関係を左右する時代に生きている。その現実を意識することが、これからの産業政策や環境政策を考える出発点になるのではないでしょうか。
2026年01月29日 07:30
