要綱って何だ?
2026年05月10日 23:00
「要綱で決まっています。」
職員と話していると、ときどき返ってくる言葉。法律でもない、条例でもない、規則でもない。要綱。こう言われたとき、心の中でこう答えることにしている。
「だから何だ?」
言葉にすると角が立つ。
地方自治体の運営は、基本的に法律や条例などの法的根拠の上で動いています。要綱は法律でも条例でもない。行政内部の運用ルールです。議会で議決されていないし、誰が決めたかも定かでない。
にもかかわらず、市民の手続き、補助金の条件、審査基準、提出書類の要件。行政の実務を動かしている細部の多くが、この「要綱」によって動いています。
それ自体は否定しません。現場を回すには運用ルールが必要です。
しかし、問題が無いわけではない。
問題は、要綱が条例と同じ重みで扱われ、固定化していくことです。「要綱で決まっていますから」と言われれば、それが正解のように聞こえる。職員も当然のような顔をしている。
そして議員の側も、どこか腑に落ちない顔をしながら、なぜか納得してしまう。
条例の顔をした、内部ルール。それが要綱。
以前の一般質問で、市民がある手続きにおいて、本来不要な書類を500円払って取得・提出させられていた事例を取り上げたことがあります。根拠をたどると、約40年前に定められた規則が見直されないまま残っていました。結果、その手続きは廃止になりました。
詳しくはこちら → https://note.com/gikai_ai_lab/n/n844b5b71c0ad
これは要綱でなく規則の事例ですが、規則でさえ40年放置される。
ましてや、議会のチェックを経ない要綱が、どれだけ見直されずに残っているでしょうか。
例えば、補助事業。
補助金のほとんどが要綱や要領で定められています。制度上、それは許容されている。しかし、要綱の中に書かれた補助額や手続き内容を、いつ誰が決めたのか。当時起案した担当者がいないケースは多々あります。
根拠なく要綱に書かれた文字だけが、条例の顔をして居座っていると感じることがあります。
補助事業に限った話ではありません。市民の申請手続き、審査基準、提出書類の要件。要綱で定められている運用ルールは、行政のあらゆる分野に存在しています。
その一つひとつの根拠を洗い出し、妥当性を検証し、矛盾がないか確認する。この作業を人力でやろうとしたら、市役所の業務が止まる。
見直さなかったのではなく、見直せなかった。
ここでいよいよAIの出番がくる。
何百とある要綱を横断的に分析して、制定年度、改正履歴、根拠法令との整合性、類似する他のルールとの重複。人間が一件ずつ確認していたら何年もかかる作業であっても、構造化されたデータさえあれば、AIで処理できる可能性があります。
ただし、落とし穴がある。
現在、伊勢原市では、独自AI(RAG)を構築し、要綱や要領を含む行政文書を読み込ませています。この件について議会で質問しました。
質問:「読み込ませた文書の整合性は、誰が精査したのか」
答弁:「所管課において見直しを進めており、正確性を担保しているものと認識しております」
各部署がそれぞれ管理しているから大丈夫だとの答弁。各部では管理しきれない構造的な課題があることは認めなかった。
検証していないデータをAIに読み込ませれば、AIは矛盾を含んだまま「根拠に基づく回答」を返してしまいます。庁内RAGからの回答にもかかわらず、ハルシネーションが常態化するリスクがある。
これでは、「要綱で決まっています」と言っていたのが、人間からAIに替わるだけ。むしろ、AIが言ったという権威が加わる分だけ、かえって信じて疑わなくなってしまう。
AIは、検証の道具にも、お墨付きの装置にもなり得るのです。
その分岐点は、根拠をたどれる形でデータが整備されているかどうかです。最初は整理に手間がかかるかもしれませんが、一度可視化されれば、それは市の財産にさえなります。
条例の顔をしたルールを、本来の姿に組み直す。必要なものは堂々と残し、根拠が曖昧なものは見直す。その判断の土台をつくること。
作業はAIに。判断は人間に。
「要綱で決まっています」
その言葉を聞いたとき、あなたは納得しますか。
それとも、その根拠を聞きたいと思いますか。
この記事は、私が日々書いているnote記事からの転載です。
(初出:note「議会AI活用研究所」2026年5月10日)
2026年05月10日 23:00
安藤玄一の政治の村ブログ
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