スマホ新法とセキュリティのトレードオフ 〜 スマホ新法は本当に必要か
スマートフォンは、もはや私たちの生活に欠かせない社会インフラです。買い物、銀行取引、行政サービス、友人や家族とのコミュニケーション──その全てが小さな端末の中に詰まっています。その意味で、スマホの安全性は「個人の便利」だけでなく「社会全体の安心」につながっています。
最近、国会で成立した「スマホ新法」(スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)は、アプリストアや検索エンジンなどの分野で競争を促し、利用者に多様な選択肢を提供することを目的としています。確かに、多様性や価格低下は歓迎すべき面があります。独占的なプラットフォーマーに縛られず、開発者が自由に挑戦できる環境を整えることは、イノベーションの芽を育てることにもつながります。
しかし一方で、見過ごせないのがセキュリティリスクです。私はかつて、自身のブログで「脱獄」と呼ばれる行為──iPhoneの制限を解除し、非承認アプリを利用する手法──に警鐘を鳴らしたことがあります。その理由は明確でした。Appleの厳格な審査を経ていないアプリの多くは、安全性の保証がなく、悪意あるソフトウェアが紛れ込む危険性が高いからです。つまり、公式に認められたストアの独占は、利用者を守るための“防壁”でもあったのです。
現実に、身近なところでサイバー被害は急増しています。たとえば、偽の宅配業者を装ったショートメールから不正アプリをインストールさせ、銀行口座からお金を抜き取る事件。あるいは、若者がSNS経由でダウンロードしたゲームアプリにウイルスが仕込まれており、知らないうちに写真や連絡先が流出してしまったケース。こうした事例は日常的に報じられ、決して他人事ではありません。
今回のスマホ新法は、あえてその防壁に穴を開ける側面を持っています。新たなアプリストアや決済サービスが参入できるようになれば、確かに競争は生まれます。しかし、それと引き換えにセキュリティが弱まり、個人情報の流出、端末の乗っ取り、さらには国家安全保障上のリスクまで拡大するのではないかという強い懸念が拭えません。
ここで、私たちが真剣に問わなければならないことがあります。
「セキュリティを犠牲にしてまで、多様性や価格低下を追い求める価値が本当にあるのか」という問いです。
サイバー犯罪がこれだけ横行している時代に、安さや多様性を優先するがゆえに利用者の安全を危険にさらすことが、果たして正しい選択でしょうか。一度失われた信用や個人情報は、決して簡単には取り戻せません。便利さは代替がききますが、安全は代替できないのです。
利便性や経済性の裏に潜むリスクを直視し、利用者の安全を犠牲にしない制度設計を徹底してほしいのです。真の意味で国民に寄り添う政策とは、安さや選択肢を追い求めることではなく、安心して使える環境を守ることではないでしょうか。
2025年09月24日 11:58